歴史 宗教・神話

九州の鬼・鬼八伝説①阿蘇と高千穂の違い

皆さん今日は、珠下(たまもと)なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます!

 

さて、筥崎宮シリーズにはたくさんの反響、アクセスありがとうございました。今日からはまた別のお話。鬼好きたまなぎがずっと気になっていた、九州地元の鬼さんですが、なんとなく深く知る機会を逸してしまっていた鬼さんについてお話しようと思います。

その名は、鬼八(きはち)。阿蘇~高千穂地方に伝わる鬼さんです。改めて調べてみましたら、この「鬼八伝説」、大変興味深く面白いものでした。それではご紹介しましょう。

 

1.阿蘇と高千穂で別の伝説となって残っている鬼、鬼八 

鬼八ですが、阿蘇と高千穂では、似てはいるものの少し違う話が伝わっています。

①阿蘇の伝説

「昔、健磐龍命(たけいわたつのみこと)は杵島岳に腰をかけ、弓の稽古をしていた。その時矢を拾う役目をしていたのが鬼八という足の強い男だった。命が最後の矢を射られた時に、鬼八は気がゆるみ、最後の矢を足の先で命に蹴り返した。命は鬼八の非礼を怒り、追い回して捕まえると、首と手足をばらばらに斬って殺したが、鬼八は元の体に戻ってしまう。それで胴をばらばらに埋めたが。首は天に舞い上がってしまった。その後、鬼八の怨念が霜を降らせ、阿蘇では作物ができなくなってしまった。命が天に向かって鬼八の霊に問うと、鬼八は『寒くなると首の傷がひどくなるので、恨みが増すのだ』と答えたので、命は『それでは毎年寒くなるころに火を焚いて温めてやるから降りてこい』と言い、それ以来一人の少女が毎年8月19日に火焚き殿にこもって60日間火を焚くことになった」

(『日本の民話 第15巻 九州Ⅱ』研秀出版、1977より筆者要約」)

この火を焚く神事は、鬼八の霊を祀る霜宮神社で今も行われています。

健磐龍命は、神武天皇の子である神八井耳命の子(『阿蘇郡誌』による)とされる神様で、阿蘇神社のご祭神となっています。他にも、文献により、神八井耳命の孫、5世孫、11世孫など違いがあります。

 

②高千穂に伝わる伝説 

一方、高千穂では、鬼八は鬼であり、神武天皇の兄である三毛入野命によって退治されたとされています。

降臨した天孫族は、暴れ回る鬼八にほとほと手を焼いたそうだ。神武天皇の兄であるミケヌノミコト(三毛入野命)は、鬼八退治に躍起となった。手勢をひきいて乳ヶ岩屋に向かうと鬼八は一尺角で長さ三十尺の巨大な石の杖を振り回し(中略)とうとう退治された。

(中略)

ミケヌは鬼八の死体を池に埋め、上から大きな岩を置いて踏み固めたが、鬼八が生き返って巨岩をぐらぐら動かすので、体を切り刻んで三カ所に散らして埋めた。ところが、今度は時鬼八の怨霊が暴れまわり、作物が実る頃になると霧を吐いて枯らした。人々は怨霊を鎮めるために、首塚と胴塚、手足塚の三つを建てて祀ったという。

(高山文彦『鬼降る森』幻戯書房、2004より引用)

三毛入野命は、高千穂神社の二之御殿の主祭神となっています。

 

2.二つの伝説の共通点と相違点 

二つの伝説に共通しているのは、

①鬼八が天孫族によって殺された

②殺されてもよみがえるのでばらばらにして埋められた

③埋められた後祟りを起こして農産物に被害を与えた 

いずれにせよ、鬼八は天孫族にとって敵であり、滅ぼされても何度もよみがえって抵抗したがついに殺され、死後にも祟った=大きな恨みを残した、という根幹のところは共通しています。両者はもともと、同じ話が二つに分かれたものではないでしょうか。 

一方、相違点は

①阿蘇版では鬼八はいったん天孫族に服従していたが、高千穂では敵対関係を続けた

②鬼八を殺したのは阿蘇版では健磐龍命、高千穂版では三毛入野命 

というところくらいです。

①ですが、足で矢を投げ返した鬼八への健磐龍命の尋常でない怒り方からは、鬼八がもともとの家来ではなく、天孫降臨後に天孫族に従った地元の民であることがうかがえます。無礼を働いたと言うだけでばらばらに斬り刻むなど、身内の人間に対して行う所業とは思えませんからね。

②ですが、これは些末な違いに見えます。やや注意すべきところは、三毛入野命は、記紀では神武東征の際、暴風に遭って常世の国に渡った=死んだことになっていますが、高千穂の伝説ではここでは死なず、高千穂に戻って鬼八を退治したことになっていることでしょうか。

 

このブログの最初の方でも述べたように、鬼はまつろわぬ民。権力によって非業の死を遂げた者も含まれます。今紹介したお話は、まさに「鬼らしい」伝説といえるでしょう。

その一方で、これらのお話は、どちらかといえば権力側からの視点で語られていますが、地元にはまた別の視点からの興味深いお話もいくつか伝わっているのです。次回の記事ではそれらをご紹介いたしましょう。

 

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

 

 

 

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