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東雅夫編『日本鬼文学名作選』鬼好きによるマニアック感想②

皆さん今日は、珠下(たまもと)なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます!

 

今回は前回の続き。東雅夫編『日本鬼文学名作選』の、鬼好きによる独断と偏見に満ちた感想です。

前回の記事はこちらです。

 

⑥菊池秀行『大江山異聞 鬼童子』より第3,4章抜粋

『吸血鬼ハンターD』シリーズや『魔界医師メフィスト』シリーズで大人気を博した菊池秀行氏の2012年の作品。こんな作品も書かれているとは知りませんでした。

これは有名な『御伽草子』の酒呑童子伝説に脚色を加え、平安ファンタジーに仕立てたもの。

「鉄」の鬼・酒呑童子(鬼=産鉄民というのはこのブログで何度もご紹介しましたね)、美しき鬼・茨木童子、そして山姥の息子とされる半人半妖の坂田公時ら四天王らの戦いが華麗に描かれます。

これは面白い! 近いうちに全編通読したいと思います。

 

⑦野坂昭如訳『酒呑童子』

いわずとしれた文豪野坂昭如氏による『御伽草子』の『酒呑童子』の再話。

思わず音読して誰かに語り聞かせたくなる、ちょっと芝居がかってリズミカルな語り口調で話が進みます。

解説によれば野坂昭如氏は、この再話のあとがきで、頼光たちに比べ、「酒呑童子の方がはるかに魅力的な人物」と書かれていたそう。

首もげるくらいうなずきたい!

 

⑧厳谷小波・黒田湖山共編『大江山続話』

明治時代、尾崎紅葉率いる文学結社である硯友社は、児童文学の分野の開拓にも熱心だったそうです。その中に、桃太郎とはじめとした「日本昔話続話」シリーズがありました。

これもその一つ。酒呑童子が大江山で殺された後、兄弟分の土蜘蛛が復讐を図り、頼光らに成敗されるというもの。

分かりやすい勧善懲悪ですが、鬼オタクにとってはちょっと不満。けれど子ども向けに書かれたものと思えば納得です。

 

⑨高橋克彦『視鬼』

高橋克彦氏も、鬼にこだわってたくさんの作品を残している方。

藤原三代を描いた大河ドラマの傑作『炎立つ』の作者としても有名です。

この方の作品においては、しばしば「鬼」と「陰陽師」は近似した存在として描かれるそう。

この作品においても主人公は安倍晴明。

権謀術数渦巻く宮廷を舞台に、人の心の恐ろしさ、滅び去ったものの哀しさに視線を向けた、これもかなり私好みの作品でした。

『炎立つ』も私の中では大河の中で三本の指に入るほどの傑作でしたし、この方の作品ももっと読んでみようと思います。

 

⑩馬場あき子『女と鬼』

歌人としても有名で、歴史的名著『鬼の研究』の作者でもある馬場あき子氏による評論。

『今昔物語』や『酒呑童子』などからの豊富な引用と共に、女性の性と鬼の関りを、容赦ない筆で生々しく恐ろしく描き出しています。

鬼好きには必読の一編。けれどちょっと生々しすぎるので、詳細には触れずご紹介はこのくらいにとどめます。

 

⑪加門七海訳『平家物語 剣の巻』

他の本に収録される予定が延期になり、やっと日の目を見たこの一編。待ってました!

清和源氏に伝わる名剣が、それらが斬ったものたちのエピソードにつれて改名され、子孫に受け継がれていくさまを中心に描かれた『平家物語』の外伝的巻。

岩波版の『平家物語』には収録されておらず、しかも加門先生の訳とあって、これはかなりお得感のある章でした。

もちろん、かの有名な「一条戻り橋の鬼」のエピソードも。

「霊剣なくして源氏は無力、というのが面白い。実は源氏ディスの書なのではないか」という加門先生のコメントが面白かったです。加門先生、鬼殺しの源氏はお嫌いですものね、分かります。

よく考えてみれば、これは『平家物語』。源氏ディスなのもある意味当然なのかもしれません。

 

というわけで、『日本鬼文学名作選』鬼の濃い世界をたっぷりと堪能できる1冊。

鬼好きのみならず、和風幻想文学をお好みの方にはお勧めしたい作品です。

文庫本で千円とややお高めですが、お値段以上の価値があります! いや、実質無料……むしろ黒字……かも……。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

 

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