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東雅夫編『日本鬼文学名作選』鬼好きによるマニアック感想①

皆さん今日は、珠下(たまもと)なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます!

 

今日は、以前Twitterでもご紹介した、東雅夫編『日本鬼文学名作選』の感想です。

鬼好きを自認する私ですが、世の中には鬼を愛する作家さんが沢山いらっしゃいます。

2022年7月、古くは御伽草子『酒呑童子』から、現代の鬼好き作家・加門七海先生の作品まで、鬼を題材にした名作を集めたアンソロジー『日本鬼文学名作選』が創元推理文庫より上梓されました。

鬼好きのはしくれとして、これはご紹介しないわけにはいかない! 遅くなってしまいましたが、独断と偏見に満ちた感想です。

 

1.芥川龍之介『桃太郎』

いわずとしれた昔話『桃太郎』を、芥川流に解釈し直した物語。

古典の換骨奪胎を得意とした芥川龍之介らしく、桃太郎をはじめとした人間たちのエゴイズムと不条理・野蛮さを徹底して暴き出しています。

一方で鬼が島を、野蛮な人間たちから逃れた鬼たちが暮らす、一つのユートピアとして描き出す。こういった描き方は、人間社会から疎外され、貶められた鬼たちに心を寄せる私のような鬼好きにとってはドストライク。呑童子さまの大江山を思わせます。

しかも、桃太郎を生んだ桃の実を、「この桃の枝は雲の上に広がり、この桃の根は大地の底の黄泉の国にさえ及んでいた。何でも天地開闢の頃おい、伊弉諾の尊は黄泉津平坂に八つの雷を却けるため、桃の実を礫に打ったという」などと、格調高く華麗で、時間的にも空間的にも限りない広がりを見せる文章で描かれているのだからたまりません。

鬼の母が子に対して、「人間というものは角の生えない、生白い顔や手足をした、何ともいわれず気味の悪いものだよ」と語るセリフも、人の不気味さ・残酷さをえぐり出す痛烈な一言。

最初から最後までうっとりとして読んでしまいました。

 

2.筒井康隆『桃太郎輪廻』

芥川龍之介の格調高く美しい『桃太郎』にうっとりしていたら、一気に地に落とされるのが次の『桃太郎輪廻』。

お下劣です。ひたすらお下劣です。昭和的下ネタのオンパレードです。

けれど作者らしいブラックユーモアに満ちたユニークな作品。

芥川龍之介の後にこれを持ってきた編者の東雅夫先生、わざとですよね⁉ 絶っっ対に、わざとですよね⁉ 読者の感情の上下を楽しんでますよね⁉

興味ある方はぜひ原本をどうぞ(それだけ?)。

 

3.対談『桃太郎なんて嫌いです。』加門七海×霧島ケイ

鬼好き作家の加門七海先生と霧島ケイ先生の対談。

うんうん、私も桃太郎なんて大嫌いです!

加門七海先生の『大江山幻鬼行』に登場するイケちゃんは霧島先生だったのですね。

お二人がひたすら熱く鬼愛を語って下さいます。

このブログでも何度も書いたように、天皇を中心とした中央集権体制が整えられていく中、都合のわるいものやまつろわぬものは鬼や土蜘蛛として排除されていきました。彼らに心を惹かれる気持ち、ものすごく分かります。

霧島先生は梅原猛先生の『神々の流竄』から鬼の世界に入られたのですね。私は沢史生先生から入りましたが、系統的には似たものを感じます。

酒呑童子さまの「鬼神に横道なきものを」は名言。

 

鬼をモチーフにした異色の仮面ライダー『仮面ライダー響鬼』の魅力について語る章も。

長いけどどこかで見てみたいです。

鬼たちの子孫が、「魔化魍(まかもう)」という妖怪の脅威から人間を守るために、音楽を使った「清めの音撃」で戦うという物語だそうです。気になる……

 

4.霧島ケイ『鬼の実』

主人公の家でこっそり盗み食いをしていた小さな鬼。見つかると「自分を喰ってくれ」と無茶な要求をしてきます。結局同居することになる鬼ですが、主人公に不思議な世界を見せてくれ……?

小鬼の、どこか憎めない可愛らしいキャラクター性、異界へのいざない、そして余韻の残るラストが印象的な短編です。

 

5.加門七海『鉢の木』

待ってました、七海先生の御作品。

山の神社に迷い込んだ男の前に現れたのは、白皙の美貌の神主。

やがてあらわになる神主の正体。そして男の狙いは、実は……?

美しい。ひたすら美しい。細部を語るのは野暮です。

これですよ、これ。私の読みたかった世界!

人の世と隔絶し、美しく哀しく、強く孤高に生きる麗しき鬼たちの世界。

いつかこんな作品を書けたらいいな……(百年は修業が必要そう)。

 

長くなりましたので、ここでいったん切ります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

 

 

 

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