博物館・資料館 歴史展

九州歴史資料館「筑紫君一族史」行ってきた②有明首長連合の時代

はじめに

皆さん今日は、珠下なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます!

 

さて、今日は、今月初めまで九州歴史資料館で開催されていた「筑紫君一族史」に話を戻しまして、展示品を交えてご紹介を続けたいと思います。

神々の時代を経て、筑紫の君磐井以前の、有明首長連合の時代です。

 

有明首長連合とは

有明首長連合とは、現在の佐賀県・福岡県・熊本県を含む、有明海沿岸を中心とした豪族たちで、彼らは政治的にもつながり、石人石馬に代表される、古墳の石製表飾などの文化を共有していました。

 

文化の共有~石製表飾と埴輪群

阿蘇の凝灰岩を使った石製表飾は、有明海周辺に独特のものです(山陰地方の一体をのぞく)。

最も古い部類のものでは、八女の石人山古墳の石人。(写真はレプリカ)

 

また、装飾古墳として有名な熊本・山鹿市のチブサン古墳にも、石人がいます。このあたりは火の君の勢力範囲ですね。

 

ちなみに、阿蘇の凝灰岩は比較的柔らかく彫りやすいので、加工に適しています。

現在の八女市の伝統工芸品である石灯籠も、この凝灰岩から作られています。

 

また、石人山古墳をはじめとする5世紀の古墳には、表飾として円筒埴輪が並べられていました。これらは当時の最先端技術であった「窯焼成」で作られており、朝鮮半島からの須恵器生産の技術を取り込んだ延長上にありました。広川町の石人山古墳、筑後市の瑞上寺古墳、大牟田市の石櫃山古墳などで、技術を共有すると思われる円筒埴輪が数多く見つかっています。

 

筑紫の君と火(肥)の君の結びつき

筑紫の君と火の君が親戚関係にあったことは、『日本書紀』の記述からもうかがえます。

書紀には、両方の氏族名を継承する「筑紫火の君(筑紫の君の子、火中君の弟)」の存在が示されています。

どのような関係かは分かりませんが、両者が親戚関係にあったことは間違いないでしょう。

火中君の弟と筑紫火の君が異父兄弟で、筑紫火の君の父が筑紫の君、ということかな?

下の埴輪は、6世紀の円筒埴輪で、「押圧技法」という、埴輪の最下段の突帯を工具で押し付ける方式で作られています。この方式の埴輪は、筑後川流域から、熊本の菊池川中流域まで広く及んでおり、筑紫の君と火の君が技術を共有していたことが分かります。

 

また、『筑後国風土記逸文』では、「筑紫の君と火の君が、甕依姫を祝として筑紫の神を鎮めた」とあり、両者が親密な関係であったことがうかがえます。

 

 

有明首長連合の首長たちとヤマト王権

しかし、彼らは連帯してヤマト王権と対立していたわけではなく、それぞれの首長はヤマト王権に服属していました。

その様子をご紹介しましょう。

水沼の君

水沼の君は、筑後川河口附近を支配していました。

水沼の君については、『日本書紀』の雄略天皇の段に、「鳥養人を天皇に献上した」話があります。また、景行天皇の段では水沼県主猿大海が、景行天皇に「あの山に神がいるか」と尋ねられて、「八女津媛がいます」と答えた話が載っています。この「八女津媛」は、筑紫の君磐井の本拠地「八女」の語源にもなっています。

これらのエピソードからは、水沼の君がヤマト王権に従順であったことが読み取れます。

ですから、磐井の乱においては水沼の君はヤマト王権側についた、と考えられる研究者もおられます(磐井の側についたとされる研究者も。このあたりはまだ謎のようです)。

 

肥の君

肥(あるいは火)の君は現在の熊本地方に本拠地を置いていました。

前項で述べたように、筑紫の君と親戚関係にあったことが分かっています。

しかしその一方で、肥の君の勢力範囲だった江田船山古墳からは、古墳時代にこの地域の首長とヤマト王権が強い結びつきを持っていた物証があります。

それはワカタケル王=雄略天皇の名の入った象嵌鉄刀。

(写真はレプリカ。本物は東京国立博物館にあります)

 

魚や鳥・馬、花形輪状紋などが刻まれており、棟に刻まれた漢文からは、持ち主・无利弖(ムリテ)がワカタケル王の治世に、「典曹人」として天皇に仕えたことが分かります。

 

この鉄剣は、群馬県の藤岡市で見つかったものと類似しており、同じ系統のものと考えられています。ワカタケル王は、広い地域から、地域の有力者を朝廷に出仕させていたことが分かります。

 

まとめ

・古墳時代、有明海周辺の地域の首長たちは、文化的・政治的つながりを強く持っており、それは「有明首長連合」と呼ばれている。

・有明首長連合の首長たちは、それぞれヤマト王権の配下でもあった。

・筑紫の君と火の君は婚姻関係であり、結びつきが強かったことは、文献学的も考古学的にも認められている。

 

 

 

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