はじめに
皆さん今日は、珠下なぎです。
今日も来て下さって、ありがとうございます!
前回から『大江山恋絵巻~人の巻~』の題材をとった、御伽草子版の『酒呑童子』※の全訳をご紹介しております。今回は2回目です。
前回のまとめ
前回の要点です。
・一条帝の時代、丹波国大江山に鬼神が住んで、近くの国や都から人をさらっていた。
・池田中納言国方の一人娘が姿を消し、博士に占わせたところ、大江山の鬼神の仕業と占い、国方が観世音菩薩に願をかけたのに約束を果たさなかったことへの咎めだとして、観世音菩薩にお参りするよう助言した。
・しかし、国方は観世音菩薩には参らず、帝にチクった。
・帝や上級貴族が詮議し、源頼光らに鬼退治を命じた。
・頼光らはそのままでは勝てそうにないので(笑)、神々に助力を願い、山伏に変装して鬼神の居場所を突き止める作戦に出た。
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【注意】酒呑童子伝説を全くご存じない方にとっては、拙著『大江山恋絵巻~人の巻~』のうっすらネタバレを含みます。ご注意下さい。
()内はたまなぎのしょうもない突っ込みです。
頼光ら、大江山に着く
頼光らはお急ぎになったので、程なく丹波の国で有名な、大江山にお着きになりました。すると、柴刈りに行く人に出会ったので、頼光は、「山のお人、この国の千丈獄はどこにあるか。鬼の岩屋を詳しく教えてくれ」と仰せになりました。
山の人はこれを聞いて、「この峯を向こうへ超えられまして、また谷峯の向こうこそ、鬼の棲家と申して人間は行くことはございません」と語りました。
頼光はお聞きになってこの峯を越えようと、谷よ峯よと分け上りました(単純、脳筋……)。ふと、とある岩穴をご覧になれば、柴の庵のその中に、翁が三人立っているのが見えました。
三社の神が現れる
頼光はその様子をごらんになって、「いかなるお人でございましょうか。疑わしい」と仰せになりました(この峰の向こうは鬼の住処と言ったからですか。単純!)。
翁は答えて仰せになりました。
「我々は人を迷わせ姿を変えるものではありません。1人は津國の百済郡のものであり、1人は紀の国の音無しの里のもの、今1人は京近くの山城の者です。この山のむこうにいる酒呑童子という鬼に、妻子を取られた無念さに、その仇を討とうと最近ここにきたのです。あなた方をよく見ると常人ではいらっしゃらず、帝のご命令を受けて酒呑童子を滅ぼせとの使いの方だとお見受けします。この三人の翁は妻子をとられてございますれば、ぜひ案内を致しましょう。笈をも降ろして緊張を解いて、疲れを取ってください」
と申されました。
頼光はこのことをお聞きになって、
「おおせのとおり我々は、山道に迷い疲れておりますので、疲れを取りましょう」と笈などを下ろして置き、小筒の酒を取り出し、三人の人々にお酒を、召し上がれとて差し上げた(なんで見ず知らずの人がそこまで事情を知ってて疑わないの? 笈の中に武器入れてんでしょ? 罠だったらどうするんだ)。
翁がおっしゃるには、
「このようにしてこっそりお入りになるがよろしい(嫌味か? 嫌味だな)。あの鬼は常に酒を呑むので、その名を酒呑童子と名付けたのです。酒盛りをして酔って寝てしまえば、前後不覚に陥ってしまいます。この三人の翁はここに不思議な酒を持っているのです。その名を神便鬼毒酒と言って、神の方便・鬼の毒酒と読む文字である。この酒を鬼が呑めば、飛行自在の力も失せ、切ろうが突こうが分かりません。皆さまがこの酒を呑めばかえって薬となります。これで神便鬼毒酒と後の世まで語り継がれるでしょう。ますます不思議な力をお見せしましょう」
と言って、星甲を取り出し、
「あなたさまはこれを着て、鬼神の首をお切りください。何の面倒もございません」
と、例の酒を添えて、頼光に下さったのです。
六人の人々はこれをご覧になって、さては三社の神々のお姿がここに現れなさったものかと、深く心に感じて涙を流し、もったいないとも言葉にもできないほどでした。
そして翁は岩屋を立って出て、さらにご案内を申し上げようと、千丈嶽を登りつつ、暗い岩穴を十丈ほどくぐって、幅のせまい谷川においでになりました。
翁はこう仰せになりました。
「この河をさかのぼってご覧下さい。十七、八歳の高貴な女性がおられるはずです。くわしくは逢ってお聞きなさい。鬼神を討つべきその時は、わたしたちが力を合わせてお助けしよう。実はわたしたちは、住吉・八幡・熊野の神が、ここまで姿を現してきたのだ」と言って、かき消すように消え失せてしまわれました。
頼光ら、大江山の姫に逢う
六人の人々は、このありさまをご覧になって、三社の神様のお帰りになった後を伏し拝みなさって、教えに従って河をさかのぼってご覧になりました。
すると、教えられたとおり、十七、八歳の高貴な女性が血の付いたものを洗いながら泣いておられました。
頼光はご覧になって、「どちらの方か」とお尋ねになりました。
姫君はこれをお聞きになって、
「はいそうです。わたしは都の者でございますが、ある夜鬼神に掴まれてここまで参ったのです。恋しい父母や乳母に逢うこともできず、こんなあさましい姿になったのを、あわれとお思い下さい」
と言って、たださめざめとお泣きになりました。姫君は、涙の落ちる間も惜しみ、
「ああ、あさましいところは、鬼の岩屋と申して、人間は来ることがありません。お坊様方は、どうやってここまで来られたのですか。どうにかしてわたしを都へ帰してくださいませ」
とおっしゃるやいなや、さめざめとお泣きになります。
頼光はこれをお聞きになって、「あなたさまは都で誰のお子ですか」とお聞きになりました。
姫君は、
「はい、わたしは花園中納言の一人姫でございましたが、わたしたちばかりだけでなく、十人以上おります。最近池田中納言国方の姫君も、攫われてここにおられますが、愛しておいて(⁉)その後は、体の中から血を絞り酒と名付けて飲み、肴と名付けて人肉をそがれて食われる悲しみを傍で見せられあわれでございます。堀河中納言の姫君も、今朝血を絞られなさいました。その帷子をわたしたちが洗うのはなんと悲しいことでございましょう。まことにつらいことです」
と言って、さめざめとお泣きになれば、鬼をもものともしない人々も、まさにそのとおりだと共に涙にむせぶのでした。
まとめ
・頼光らは大江山に着き、芝刈りの人に鬼の居場所を尋ねた。
・頼光らのもとに三社の神が現れて、鬼の居場所へ続く道を教え、鬼に勝つ作戦と鬼にだけに効く毒の酒を授けた。
・三社の神の教えどおりの道を辿ると、美しい姫君が血のついた帷子を洗っており、鬼の非道を訴えて泣いた。
最後までお読み下さって、ありがとうございました!