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福岡の勅祭社・香椎宮①島の中の弁天様の謎

皆さん今日は、珠下(たまもと)なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます!

 

さてさて今日は、神社レポートに戻ります。

福岡の勅祭社・香椎宮。

福岡で唯一の勅祭社(天皇家からの勅使が派遣される神社)で、その始まりは、神功皇后がこの地で亡くなった夫の仲哀天皇を葬った場所と伝えられ、大変歴史の古い神社です。

末社も多く、大変見どころの多い神社なので、何回かに分けてご紹介したいと思います。見方によると、香椎宮は、想像以上になかなか物騒な神社でありました(意味深)。

 

①本殿に至るまで2か所の橋

一の鳥居をくぐるとすぐに、橋があります。

 

そこからさらにもう一か所橋を渡り、二の鳥居へ。

 

橋を渡らないと本殿に到達できない神社はこちらの記事で紹介した、「封霊四法」の②にあたります。つまり、神を閉じ込めているタイプの神社。しかし、河川の多い日本では、橋があるのはそう珍しいことではありませんので、これはひとまず置いておきましょう。

「封霊四法」についてはこちら↓

 

②島の中の弁天様

一の鳥居を通り、橋を渡ると、左手に弁天社への案内があります。

この弁天社は島の中にあり、さらにもう一つ橋を渡らなければなりません。

 

このように、完全に陸からは隔絶しています。

 

中には弁天様が祀られています。

 

ところが、この末社のご祭神は、「市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)」となっています。

なぜでしょう?

弁天様=弁財天は、もともとインド神話の女神、サラスヴァティです。この神様は芸術・学問などを司るインド神話の女神さまで、インドで仏教に取り込まれ、弁財天となりました。

それがさらに仏教と共に日本に輸入され、日本での神仏習合により市杵島姫命と同一視されたのです。

インドでの神仏習合:サラスヴァティ=弁財天

日本での神仏習合:弁財天=市杵島姫命

日本とインドの両方で神仏習合が起こっているのでややこしいですね。

これにより、市杵島姫命は、弦楽器を持った美しい女性として描かれるようになったのです。

 

③市杵島姫命って?

市杵島姫命は、宗像三女神の一人。宗像大社に祀られている神様です。

「神に斎(いつ)く島の女性」という意味から、元々女神そのものというよりは巫女的な性格の強い神様だったとも言われています。弁財天と結びついてからは、特に美人の神様、芸事の神様、財産の神様というイメージが定着し、人気を集めました。

もともと宗像三女神は、天孫・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が天下った時、安全を守護するように命じられた神様とされています。しかし、日本書紀には「筑紫の水沼(みぬま)の君らが祭(いつきまつ)る神、これなり」と記されており、どちらかというと天孫降臨以前からいた、土地の神様と位置付けていることが分かります。

天孫降臨の地である九州を中心として、九州には古くから海と共に暮らした民族が多く住んでいました。海幸山幸物語の海幸彦に代表される隼人族もそうですし、古代の九州で海洋系の民族の中で有力だったと伝えられる安曇族もそうです。

これらの海洋系民族は、紀元前3世紀ごろ、中国の江南地方から渡って来たと考えられています。航海術を持った彼らが三国時代の混乱を逃れて日本にたどりつき、広がっていったのです。この人たちが奉じていたのが、広い意味での海神(わだつみ)です。

この海神には、宗像三女神を含め、様々な神々が含まれています。

 

④市杵島姫命は怨霊神か?

前項でも述べたように、宗像三女神はもともと土地にいた神であり、天孫降臨後、高天原の天つ神に征服されています。

ですから、市杵島姫命も、猿田彦や大国主命らと同様、被征服民としての性質を持ちます。

また、興味深いことに、市杵島姫命が同一視される弁財天は、瀬織津(せおりつ)姫とも同一視されます。この瀬織津姫は、天照大御神の荒魂とされています。つまり、祟りをなす恐ろしい神ですね。

被征服民の立場から古代史を研究している沢史生氏は、「宗像三女神は漂泊神」としていますし、沢氏に影響を受けた作品を多く発表している作家の高田崇史氏は、「市杵島姫命の語源は『島に居つく(=島から出られない)』で、あり市杵島姫命は怨霊神」と述べています。

こう考えると、弁天様が陸から隔絶された島に祀られているのも、納得がいきます。特にこの神社は、天つ神の子孫である神功皇后、仲哀天皇らを祀った神社。征服した神々を「従えた上、閉じ込めた」ことを示す意味もあるのかもしれません。

また、「水辺にいる人びと」は、後に「河原者」や「河童」とされた、被差別民のイメージも重ねられますが、これについては長くなりますのでまた別の機会に。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

(参考文献;沢史生『閉ざされた神々』(1984年,彩流社)高田崇史『神の時空-巖島の烈風ー』(2015年,講談社ノベルス))

 

 

 

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