皆さん今日は、珠下(たまもと)なぎです。
今日も来て下さって、ありがとうございます!
さてさて今日は、怪談作家の東雅夫先生の編集による『鬼 ――文豪怪談ライバルズ!』の感想です。2021年の出版にもかかわらず、今まで見逃していたのは鬼好きとして痛恨の極み……!
以前ご紹介した、同じく東雅夫先生の編集による『日本鬼文学名作選』と違い、こちらは「怪談」の名にふさわしく、怖い作品が多かったです。「鬼」をテーマにしているだけあり、人間のエゴイズムや弱さ、悲しさ、美しさを感じさせる作品が多く、こちらも鬼好きとしては大満足の一冊でした。執筆陣も、泉鏡花・倉橋由美子・小松左京・京極夏彦・手塚治虫など超豪華。
できればすべての作品をご紹介したいのですが、作品の数が多いため、特に印象に残った作品を中心に、抜粋してご紹介したいと思います。
選択はたまなぎの独断と偏見と偏った好みに基づいております。
①泉鏡花『鬼の角』
トップバッターは『高野聖』などの幻想的な作風で知られる文豪・泉鏡花の『鬼の角』。文語体ですが意外に読みやすいです。
温厚で慈悲深い御隠居が、鬼が落とした角を拾います。鬼が探しているのを知っていながら、御隠居はその角を返してやらず自分のものにしてしまい……(あらま)。
鬼が鬼たるゆえんが角にあるという発想が面白い。確かに、人間になくて鬼にあるものと言えば、平安以降のイメージでは角ですね。
「角を失った鬼」「角を手に入れた人間」がそれぞれ変化していくさまが、ユーモアを含みながらもぞっとさせるような凄みを漂わせています。ラストシーンも印象的。
鬼と人間を分かつものは角一つ。実は紙一重では? というメッセージを読み取ったのは深読みしすぎでしょうか(笑)。
②京極夏彦『鬼情』
皆さんは、江戸時代に書かれた『雨月物語』の中の『青頭巾』というお話をご存じでしょうか。題名は知らなくとも、「僧が寺に稚児として仕えていた美少年との愛欲におぼれ、少年の死後も手放せず、肉を吸い骨をしゃぶり、ついには鬼と化してしまった話」と聞けば、聞いたことがあるという方も多いでしょう。
『青頭巾』では、鬼になった僧の住む寺のふもとの村を訪れた僧・快庵が、村人に頼まれて僧を教化しますが、本作ではその過程を作者のアレンジで、鬼にになった住職と快庵の問答という形で詳細に描き出しています。
愛とは、愛欲とは、救いとは。二人の問答に読者の感情は翻弄され、次第に「鬼」の方が人間らしさを備えているのではとさえ錯覚するようになります。そして、ラストに起こる衝撃の逆転。
「人の心を失った鬼が仏法により教化され救済される」という、勧善懲悪的な元の物語を見事にひっくり返し、鬼の中に潜む人間性、人の中に潜む鬼性ともいうべきものをえぐり出した本作。これにも、鬼と人間の境界のあいまいさを強く訴えるメッセージ性を感じた珠下なぎ。
多少理屈っぽくもありますが、これもかなり好みの作品でした。
ちなみに、元の物語にある「肉を吸い~」という表現。違和感を覚えた方もおられるかと思いますが、これ、「腐乱死体になってドロドロになってるから」ですよね。うげげっ……
③坂東眞砂子『鬼に喰われた女』
こちらは平安時代のお話。『今昔物語』に、在原業平が盗み出した女性を無人の山荘に隠したところ、鬼に一口で喰われてしまい、後には女性の頭と着物だけが残っていたという話があります。それにヒントを得た物語と思われ、こちらも鬼に妻を喰われてしまう男性の物語です。
鬼が妻を「喰う」様の描写がすさまじく官能的ですが、どこか美しさを感じさせます。「喰う」の意味が物理的なものではないのですよね(お察しください)。そして、鬼に喰われた後の妻は……
これも、ぞっとするけれども異界の持つ抗いがたい魅力を感じさせる作品で大変好みでした。
次回に続きます。次回はさらに暴走の予定。
ちなみに同じく東雅夫先生の編集による、『日本鬼文学名作選』の感想はこちら。こちらも鬼好きさんにはお勧めです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!