はじめに
皆さん今日は、珠下なぎです。今日も来て下さって、ありがとうございます。
御伽草子『酒吞童子』現代語全訳、その5(最終回)です。()内はたまなぎのしょうもないつっこみです。
前回までのあらすじ
「大江山の鬼が人をさらうのでとりあえずボコして来い!」と帝に命じられた頼光ら6名。
門番の鬼たちに食われそうになるも、酒呑童子の優しさにつけこみ(!)、宴の客となる。
頼光らは酒呑童子に正体を見破られそうになるが、なんとかごまかし、三社の神からもらった、鬼だけに効く毒の酒「神便鬼毒酒(じんべんきどくしゅ)」を酒呑童子ら鬼に飲ませることに成功する。
頼光ら、姫たちに案内を頼む
頼光はこの様子をご覧になって、二人の姫君を近づけて(エロジジイ!)、
「あなたがたは都ではどなたの姫君でいらっしゃるか」
と聞きました。
「はい、わたしは池田の中納言の國方のひとり姫でありましたが、最近さらわれて来て、恋しい父母や乳母に会えもせずにこのようなあさましい姿を見せるのを、あわれとお思いくださりませ」
と言って、姫君はたださめざめとお泣きになりました。
今一人の姫君はとお尋ねになると、
「はい、わたしは吉田宰相の妹姫でございましたが、なかなか死ぬこともできませんでうらめしいことです」
と嘆き、二人の姫君は共に声も惜しまず消え入るようにお泣きになりました。
頼光はこの様子をお聞きになって、
「もっともなことです、では鬼を今夜退治してあなたがたを都へお送りし、恋しいご両親に会わせて差し上げましょう。ですからわたしたちに鬼の寝所をお教えください」
と言ったので、姫君たちはお聞きになって、
「これは夢か現実だろうか」
「それならば鬼の寝所をわたしたちが、よくご案内しますのでご用意ください」
と言いました。
頼光はよかったと思われて、
「それならば皆、それぞれ武装なさるように」
と言って、そっと鬼の寝所の傍に忍び寄りました。
頼光の出で立ちは、螺鈿(らでん」)鎖の緋縅(ひおどし)の鎧を使い、三社の神の下さった星甲(ほしかぶと)に、同じ毛の獅子王の甲を重ねてつけ、ちすいと申す剣を持ち、南無や八幡大菩薩(そういえば八幡神は源氏の守り神でしたね)と心の中に祈念して進み出られました。
残る五人も思い思いの鎧を着て、いずれもおとらぬ剣を持ち、女房たちを先に立てて(女性を盾にするとは卑怯な!)、静かに忍んでいきました。広い座敷を過ぎて石橋をわたり、中の様子をみれば皆酒に酔い寝転んで、誰だととがめる鬼もいませんでした。乗り越えてご覧になると、広い座敷のその中に、鉄で屋形を建て、同じ扉に鉄の太い閂を差し立ててあり、常人の力ではなかなか中に入るすべはありませんでした。
三社の神が加勢する
隙間から見れば四方に燈を高く立て、鉄杖や逆鉾を立ててならべ、童子の姿を見ると、夜の姿へと変わり果てておりました。
その背は二丈余りで髪は赤く逆だって、髪の間から角が生えて髭も眉毛も茂り、手足は熊のようで四方へ手足を投げ出して、寝転ぶ姿を見るには、身の毛もよだつばかりでした。
ありがたいことに三神(神便鬼毒酒をくれた神様たちですね)が現れて六人の者たちに、
「よくよくここまで参った。しかし安心せよ。鬼の手足をわれわれが鎖につないで四方の柱に結えつけたから、動く様子はない。頼光は首を切れ、残る五人はあとさきに立ち回ってずたずたに切り捨てよ。問題は無い(神様がずいぶん卑怯かつ残酷なことをおっしゃいますのね……!)」
とおっしゃって、門の扉を押し開き、かき消すように消えてしまわれました(ん?ちょっと待って。頼光たち、全部神様任せでは……? 作戦も立ててもらったし、神様がいなかったら酒呑童子の寝所に入れず、周りでうろうろして終わったのでは?)。
さては三社の神々のここまで姿を表されたのかと感じ入って頼もしく思いながら、教えられた通りに頼光は頭の方に回って、ちすい(刀ですね)をするりとお抜きになって、
「南無や、三社の御神力を合わせてお与えください」
と三度礼をしてお切りになれば、鬼神は目を見開いて、
「情けない、客僧たち、いつわりはないと聞いていたのに、鬼神は邪なことを行わないというのに(鬼神に横道なきものを! の名セリフはこれです)」
と起き上がろうとしました。
しかし、手足は鎖に繋がれて起きることのできなかったので、大声を上げて叫ぶ声は、雷電いかづちが天地に響くようでした。
もとよりつわものたちの刀は鋭く、太刀の動きは早く、ずんずんとお切りになったので、首は天に舞い上がりました(ひどい)。
その首は頼光を見つけてただ一噛みにとねらったのですが、星甲に恐れをなして、頼光は無事でした。
頼光ら、茨木童子を討つ
酒呑童子の足手胴まで切り、頼光らは大庭に向かって出て行きました。
すると、あまたの鬼のその中に、茨木童子と名乗る者が、
「あるじを討つ奴らに、手並のほどを見せよう」
と言って、振り向きもせず襲い掛かりました。
綱はこの様子を見るやいなや、
「手並のほどはしらぬが、目に物見せてくれよう」
と追ったり振り払ったりしてしばし戦っていましたが、なかなか勝負は見えませんでした。
がっちり組み合って、上を下へと争う、綱の力は三百人力、茨木も力が強く綱を捕まえて押し倒しました。
頼光はこの様子をご覧になって駆けつけ、茨木童子の細首(ちょっっと待って! 茨木童子、三百人力の綱を押し倒すほどの剛力なのに細首ですって!? 萌える……)を宙に打ち落としました。
すると、石熊童子金童子そのほか門を固めた、十人ばかりの鬼たちがこの様子を見るやいなや、今は童子もおられない、どこを住処とすればいいのかと、鬼の岩屋も崩れんばかりの勢いで、喚き叫んでかかってきました。
六人の人々はこれをご覧になって、優れたやつらの手並のほどを見せようと、お習いになった剣術を使って、あちらこちらへ追い詰めて、あまたの鬼たちをことごとく退治して、しばらく息を整えておられました。
頼光が、
「女房たちを早くお出しせよ、今は子細もわからぬであろう」
と仰せになったので、この声を聴くや否や、囚われておられた女房たちは、牢屋の中から転がり出て、
「これは夢か現実か、わたしも助けてくださいませ」
とわれもわれもと手を合わせて、嘆き悲しみむ有様を物に例えるならば、罪深い罪人が獄卒の手に渡って、無間地獄に落とされたのを、地蔵菩薩の錫杖(じゃくじょう)にて、お救いになるさまも、このようなものであるのだろうかと思い知られたものでした(そこで姫たちをなぜ地獄に落とされた罪人に喩える? 姫たちに何の罪が?)。
堀河中納言の姫の嘆き
その時六人の人々は姫君を先に立て、奥の様子をご覧になれば、宮殿楼閣は玉を下げ、四季を模して、甍を並べて立てたのは、心も言葉も及ばぬほどでした。
また傍をご覧になれば、死んだ人の骨やまだ死んでいない生の人がいて、あるいは酢に漬けられた人もいて、目も当てられぬ有様のその中に、十七、八歳の上臈の、片腕を落とされ股(もも)を削がれ、まだ死んではおらず泣き悲しんでいるのがおられた。
頼光はこの様子をご覧になって、
「あの姫君は都で誰の姫であったのか」
とお聞きになった。
姫君たちはお聞きになって、
「はい、あれこそは堀河中納言の姫君でございます」
と言って急いでそばに走り寄った。
「ああ姫君、いたわしいことです。わたしたちはお坊さまたちの、鬼をことごとく退治して都へ連れて帰ってもらえるのに、あなたを一人ここに置いていくのは悲しいことです。このような恐ろしい地獄にも、御身に心が引かれて、心残りなことです」
と姫君たちは髪を撫でて、
「何事でもお心に浮かぶことがあればわれわれにお聞かせください。都に登りましたら、父母にお届けしましょう。姫君いかがでしょう」
と言えば、堀河中納言の姫君はこれを聞かれて、
「羨ましい人々ですこと。このようなあさましはかない身の、先に消えることもできずに、こんな姿を人々に、お見せする恥ずかしさよ。都に登られましたら、父母がこのことをお知りになったら、我が身のことを嘆かれるでしょう、悲しいことです。父母に形見を残すのは、父母にとって物思い、悲しみの種となるでしょうが、わたしの形見とおっしゃって、わたしの黒髪を切って持っていってください。また、この小袖は、わたしが最後の時まで着ていた小袖とおっしゃって、その黒髪を包んで、母上に差し上げて死後の菩提を弔ってくださいと、よくお伝えください。御坊さまたち、お帰りになるその前に、わたしにとどめをさしてください」
と言って、消え入るようにお泣きになりました。
頼光らの凱旋
頼光は聞かれて、
「もっともなこと。しかし、都に登ったら、父母にこのことをしっかり伝え、明日にも迎えの人をよこすでしょう。それでは」
と言って(え? 片腕落とされた状態でほっとかれたら明日までもちませんよ? 何気にひどくないですか? 苦しませるより希望どおりとどめを刺してあげた方が……)、悲しい洞穴を出て行って、谷嶺過ぎて急いでいるとほどなく、大江山の麓にある下村の在郷に着きました。
頼光が、
「このあたりの人たちよ、急いで伝馬を用意するように触れ回らせて、女房たちを都に送ってくれ(え? けが人の救助の方が先じゃないですか? 自分たちが褒められることしか考えてない?)」
といえば、このあたりの人々は、
「承知しました」
とおっしゃいました。
その時丹波国司は大宮の大臣殿と申す方でしたが、この様子を聞かれて、なんとめでたいことだと急いで飲食物を用意して差し上げました。その間に馬や乗り物で人々を都へお送りになりました。
都ではこのことを聴くやいなや、頼光の上洛を見物しようとして、ひとびとがおおさわぎをして待ち受けていました。
その中に姫をとられた池田中納言夫婦もおいでになって、会えるところまでと迎えにでられておられたのですが、頼光を見つけて、
「はやくこちらへ」
とおっしゃったので、姫君もごらんになって母上様とお泣きになりました。
母上はこの様子をご覧になって、するすると走り寄り、姫君にとりついてこれは夢か現実かと、消え入るようにお泣きになれば、中納言もお聞きになって一度別れた自分の姫に、再び会うことはなんと嬉しいことだと急いで宿所にお帰りになりました。
頼光は参内し、帝はご覧になって、計り知れぬほど感じ入りなさったのです。
帝が下さったご褒美は限りありませんでした。
それ以来、国は安全になり長く平和に治る世となりました。
かの頼光の手柄は、ほかに例の少ない武士として、帝から下々の番人に至るまで、感ぜぬものはいませんでした。
まとめ
・頼光らは酒呑童子らを毒酒で眠らせ、姫たちを案内に立てて酒呑童子の寝所へ向かった。
・頼光らが中に入れずうろうろしていると、三社の神が現れて、酒呑童子を縛り上げ、扉を開いて「さあ斬れ」とそそのかした
・頼光らは酒呑童子をずたずたに斬り、茨木童子の首も打ち落とした。片腕を落とされた堀河中納言の姫が死にきれずに苦しんでいたが、頼光は形見の髪を持って(見捨てて)都に凱旋して、沢山のご褒美をもらった。
最後に
全5回にわたるたまなぎ訳『酒呑童子』いかがでしたでしょうか?
たまなぎの新刊『大江山恋絵巻~人の巻~』はこの伝説をベースに、大幅にアレンジを加え、大江山に生きる人々の視点~鬼サイドからこの事件を描いています。
気になった方はぜひ、こちらもご覧下さい!
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