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「作りたい女と食べたい女」①~物語と現実の隙間を埋める新しいドラマ

皆さんこんにちは、珠下なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます。

 

11月28日から、NHK夜ドラで『作りたい女と食べたい女』が始まりました。

2018年の『おっさんずラブ』の大ヒットを皮切りに、現在は「ブーム?」と言いたくなるほどBLドラマが量産され、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(通称・「チェリまほ」)『きのう何食べた?』(通称・「何食べ」)など、優れた作品も沢山生まれています。

ところが、女性同士の恋愛を描いたドラマは、本邦ではまだまだ少ないです。民放も含めて、連続ドラマではこの作品が初めてではないでしょうか?

このブログを書いている時点では、コミックは3巻まで発売、ドラマは3話まで放送されましたが、単に「女性同士の恋愛を扱っている」以外にも、今までにないドラマだといえます。

というのも、これは単なる同性愛ドラマではなく、非常に社会的なメッセージを含んだドラマで、しかもそれを前面に打ち出しているからです。それではご紹介していきましょう。

 

1.ドラマの概要

主人公は契約社員の野本さん。SNSに料理アカウントをもって投稿するくらいの料理好きなのですが、一人暮らしで、しかも少食。

本当はあんな料理もこんな料理も作りたい! のですが、食べてくれる人がいないのが悩みの種。

そんな野本さんが、同じマンションに住む同世代の女性・春日さんが、たくさん食べる人であることを偶然知ってしまいます。

勇気を出して春日さんを食事に誘う野本さん。料理を通じて二人の心は少しずつ通い合っていき……という物語です。

 

2.ドラマの魅力とメッセージ性

このドラマ、出てくる料理がどれもとてもおいしそう。

公式ホームページでは、親切にレシピも公開してくれています。

あ、でもそのままの量で作るととんでもない量になるので注意! だそうですよ。野本さんが春日さんと食べるために作る量ですからね。

作りたい女と食べたい女 - NHK

しかも、このドラマは、現代日本における「女性の生きづらさ」を丁寧に描いていて、思わず「分かる分かる!」とうなずいてしまうシーンがちりばめられています。

例えば、会社にお弁当を持っていく野本さんに、「いいお母さんになれそう」と話しかけてくる男性。本人は褒めたつもりなのでしょうが、野本さんは「自分が好きでやっていることを、全部『男のため』って回収されるのつらい」と独白します。

また、たくさん食べる春日さんは、定食屋さんで唐揚げ定食を頼むと、ご飯を勝手に少なめによそわれてしまいます。

いずれも、「女性ならこうだろう」「女性ならこうあるべき」という決めつけ、いわゆるジェンダーバイアスです。

これに対して、生理痛で苦しむ野本さんを、生理の軽い春日さんが看病するシーンでは、春日さんは「同じ女性はいませんから」と労わります。

「女性だからこう」ではなく、野本さんという個人に向けられるやさしさが描かれている。こういう優しく丁寧なメッセージは、「チェリまほ」の世界を彷彿とさせます。

また、この作品で驚いたのは、放送に先立つ約2週間前、原作3巻の発売日に、新聞の全面広告にこんなメッセージを出したこと。

「#物語のままで終わらせない」というハッシュタグに続いて書かれたメッセージの中で、こんな言葉が胸に刺さります。

「日々、同性カップルを描いた たくさんの作品が生まれる一方で

今の日本では同性婚が 法で認められていません

漫画のコマの中で 小説の文章の中で テレビの映像の中で

ふたりの幸せは、物語の中だけで 完結してもいいいのでしょうか」(赤字筆者)

以前個人ブログのアメブロで書きましたが、男性同士の恋愛を描いた漫画などのいわゆるBL作品群は、女性向けの「ファンタジー」として描かれた側面がありました。

しかし、時代は下り、LGBTQへの理解が一般に認知されるにつれて、BL作品も、より当事者に寄り添った内容のものが増えてきているように感じます。

そんな中、はっきりと同性婚を応援するメッセージを出した作品。

こういった作品は、初めてではないでしょうか。

少し深読みすると、BLを愛好する女性に対して、

「同性愛作品を娯楽として消費するだけでいいのか? 社会の一員として同性愛者当事者にとって生きやすい社会を作り上げていく責任があるのではないか?」

と言っているようにも読み取れないでしょうか(これは自戒をこめて)?

物語を物語のまま終わらせない。このドラマは、女性同性愛者を初めて扱ったという面でも、現実と物語の隙間を埋めようと試みているという面でも、非常に画期的なドラマだといえます。

 

3.女性の生きづらさと同性愛者の生きづらさ

私は正直に言いまして、最初この漫画を読んだ時に少し違和感を持ちました。

「女性の生きづらさはすごく分かる。けれども、女性の同性愛者は女性を性的対象とする女性であって、男性を嫌悪しているとは限らない。女性の生きづらさと同性愛者の生きづらさを一緒に描くと、問題がごちゃまぜになってしまわないか?

と思ったからです。

けれど色々考えた末、「いや、やはりこの作品はこれでいいんだ!」と思えるようになりました。

以前、新聞で「女性の同性愛者は、男性の同性愛者よりもさらに、声を上げにくい状態にある」と呼んだことがあります。

そこには、現代における男女の非対称性があるからです。

長くなりますので、このお話は次回に回したいと思います。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

 

 

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