歴史 宗教・神話

珠下なぎの歴史メモ⑦天稚彦草子の源流はギリシア神話?

皆さん今日は、珠下なぎです。

 

今日も来て下さって、ありがとうございます!

 

先日、日本独自の七夕伝説「天稚彦草子」についてお話しさせて頂きました。

 

このお話が、「ん? あのお話そっくりでは?」と気付いてしまったため、七夕ネタは3回目の連載となりました。

いや、もう七夕とはあまり関係ない話になってますね。

 

さて、前回の記事をご覧下さった方で、「天稚彦草子」にそっくりなあの話とはこれかな?と気付いた方おられますか?

私ごときが気付くくらいですから、皆さまもうお気づきかもしれませんね。

 

それはギリシア神話の「プシュケーとエロス」。

ああ、あの話か! とぴんと来た方も多いと思います。

 

ギリシア神話にあまり詳しくない方のために、ざっとあらすじをご説明いたします。

ちなみにプシュケーは人間の娘、エロスは美の神アフロディテの息子で愛の神。

キューピッドという名の方がなじみがあるかもしれませんね。

弓矢を持った幼児の姿で描かれることが多く、日本にもキューピー人形なるものもあります。

ところがこのキューピーちゃん、大人になると絶世の美青年に成長します。なんといっても美の神アフロディテ(ビーナス)の息子ですからね。

「プシュケーとエロス」は大人になったキューピーちゃん……もとい絶世の美男神・エロスと人間の美女・プシュケーの物語です。

 

プシュケーは美人三人姉妹の末娘で、しかも人間離れした美しさを持っていたため、美の神アフロディテに嫉妬され、怪物との結婚を強いられることになってしまいます。

ところが、アフロディテの息子・エロスは恋の矢を間違って自分の手に刺してしまい、プシュケーに恋してしまいます。

エロスはプシュケーをかくまい、自分の姿を隠して夜ごとプシュケーのもとに通い、愛を交わします。

けれど「絶対に自分の姿を見てはいけない」ときつく言い渡します。

 

プシュケーは最初はいいつけを守りますが、怪物に嫁いで泣き暮らしていると思っていた妹が幸せに暮らしているのを嫉妬した姉たちがプシュケーをそそのかし、「夜になったら夫の姿を確認して殺せ」とそそのかします。

姉たちにそそのかされたプシュケーは禁忌を破り、夜中に自分の隣で眠っていた夫の姿を明かりで照らし、刃物を振り上げます。

 

ところがなんと言うことでしょう。

明かりに照らされたその姿は、絶世の美男神・エロス。

裏切られたことを知ったエロスはショックで身を隠し、プシュケーは自分の行いを悔いて夫を探す旅に出ます。

 

プシュケーは様々な苦難の末にアフロディテの神殿に辿り着きますが、プシュケーを快く思わないアフロディテから、息子との結婚を許してもらうために様々な難題を出されます。

色々な動物や虫の助けを借りてそれらの難題をクリアしたプシュケーは、ようやくエロスとの結婚を認められ、人間でありながら神々の仲間入りを果たすのです。

 

以上があらすじです。

 

「天稚彦草子」との共通点の多さに驚きませんか?

①人間の美女が男性神と結婚する

②男性神は最初は恐ろしい姿をしている(恐ろしい姿と思われている)が実は絶世の美男

③男性神が人間の美女に禁止事項を出すが、人間の美女はそれを破り、夫を失う

④人間の美女は男性神の親から無理難題を出され、それをクリアすることで結婚を認められる

⑤人間の美女は三姉妹の末娘で、姉たちにそそのかされて夫の禁止を破る

 

前回の記事にも書きましたが、結婚のために難題をクリアするタイプの民話は「難題婿」と呼ばれ、世界各地にあります。

けれど、ほとんどは、男性が美女やお姫様を得るために、様々な難題をクリアさせられる話。

女性が試練に遭う話は圧倒的に少ないのです。(少なくとも私はこの二つ以外には知りません)。

 

しかもそれ以外の骨組みも、このふたつのお話はそっくり。

 

ここまで似ていると、ルーツは同じだと考えるのが自然ではないでしょうか?

天稚彦草子は16世紀の成立、ギリシア神話は紀元前9世紀から8世紀には体系的に成立したと考えられていますから、プシュケーとエロスの物語の方が圧倒的に古い。

 

シルクロードを伝わってきたギリシアの物語が、中国の七夕伝説及び古事記の天稚彦伝説とまじりあい、壮大でロマンチックな「天稚彦草子」として成立したのではないでしょうか。

 

日本の神話も東南アジアとの共通点が多い(因幡の白兎など)と言われていますが、ギリシア神話の影響を受けたと思われる物語が中世に成立していたとはびっくりですね。

 

最後まで読んで下さって、ありがとうございました!

 

 

 

 

 

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