はじめに
皆さん今日は、珠下(たまもと)なぎです。
今日も来て下さって、ありがとうございます!
さて、今回は鬼八シリーズ3回目です。前回の記事では「征服側と被征服側では、全く違う話が伝えられている」お話をしましたが、今回はこの点から見て、非常に興味深いお話が伝えられているので、それをご紹介しましょう。それは、鬼八の妻についてのお話です。今回も、高山文彦氏の『鬼降る森』からの引用です。
1.鬼八の妻、アサラ姫
一般的に伝えられているお話はこうです。
ミケヌ(筆者注:三毛入野命)は神武天皇を熊野に上陸させた後、高千穂に戻った。その頃鬼八が暴れており、阿佐羅姫という美しい女性にひとめぼれし、無理やりさらって妻にしていた。ミケヌは鬼八を征伐した後、アサラを妻に迎えて8人の子をなし、高千穂の領主となった。
いかに鬼八が暴虐で、地元の人を苦しめていたかが強調される内容で、阿佐羅姫は、意に反して鬼八にさらわれた被害者、三毛入野命はそれを救ったヒーローとしてして描かれています。
2.阿佐羅姫と鬼八の真実
ところが、地元にはまた別の話が伝えられているのです。
鬼八が死んだ後、竜ヶ岩に白と黒の二匹の大蛇が住むようになり、その仲睦まじい姿から、鬼八とアサラの生まれ変わりではないかと言われるようになった。
アサラが生まれ変わって大蛇になった、という話が伝えられているとなると、アサラは鬼八と一緒に死んだことになります。三毛入野命の妻にはなりえないのです。
また、仲睦まじい姿が鬼八とアサラを連想させたということは、二人は鬼八の略奪ではなく、愛し合って夫婦になったと、地元の人が考えていたことが分かります。
それを示す、もっと具体的な話も伝わっています。
ミケヌは鬼八を屈服させるため、妻のアサラをさらって人質とした。鬼八の死後、アサラは鬼八の跡を追って自害した。
これはさらに踏み込んだ内容です。アサラをさらったのは鬼八ではなく三毛入野命の方。それを鬼八の所業にしたというのも、いかにも王権側のやりそうなことではあります。阿佐羅姫が美しかったので鬼八から奪いたかったとか。
3.矛盾する話をどう考えるか
このように、征服側と被征服側で違った話が伝えられているということは、よくあります。かの有名な酒呑童子も、都から姫をさらったり暴虐のかぎりをつくしたりした悪鬼と『御伽草子』には書かれていますが、こんなお話もあります。
鬼好き作家の加門七海先生のツイートからの引用です。
これは、酒呑童子が地元の人に慕われていたことを示す話です。酒呑童子を殺した源頼光らの所業を正当化するため、酒呑童子が悪鬼に仕立てられたのでしょう。
とはいえ、征服側と被征服側で違う話が伝わっている場合、征服側だけが話を捏造するとは断定はできません。被征服側が自分たちのプライドを守るため、伝説を捏造することもあるでしょう。
けれど、征服側と被征服側で正反対の話が伝わっているというのは、歴史が立場によっていかようにも変わること、史実が曲げられたりでっち上げられたりして伝えられることは大いにありうることなのだ、ということを私たちに教えてくれます。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!