オリジナル小説 『大江山恋絵巻』 歴史 物語 作品解説&エピソード

サントリー美術館『「酒吞童子」ビギンズ』図録感想①

はじめに

皆さん今日は、たまなぎこと珠下(たまもと)なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます!

さてさて、今日は久しぶりに歴史――鬼記事です。

『大江山恋絵巻~鬼の巻~』の発売が近くなってきたせいもありますが、実はすごいものをゲットしたからです!

その名も『「酒吞童子」ビギンズ』。

2025年、4月29日から6月15日までサントリー美術館で開催された『「酒吞童子」ビギンズ』の図録です。この展覧会、とても気になっていたのですが、東京まではなかなか気軽に行けず。あきらめかけていたところに、通販があることを知り、さっそく取り寄せました。

サントリー美術館蔵「酒呑童子絵巻」とは

「酒呑童子」の名を聞いたことがある方は多いと思いますが、そのルーツについては皆さんご存じでしょうか。

大きく分けると、諸本と各地方の伝説に分けることが出来ます。

このうち、諸本には、最古の『大江山絵詞』や、『御伽草子』が含まれ、各地方の伝説には酒呑童子がいたと言われる国上寺の『大江山酒顛童子』や奈良絵本『酒典童子』、その他が含まれます。

 

サントリー美術館蔵『酒伝童子絵巻』 は、諸本の中に含まれ、成立時期やその経緯が分かっており、大変貴重な資料とされています。

1522年、小田原の北条氏綱の命によって製作が始まり、狩野元信が担当しました。狩野元信は、いわゆる狩野派を確立した絵師で、元信が描いた『酒伝童子絵巻』は、以後狩野派を代表する画題の一つとなり、江戸時代を通して、さらに流派を超えて繰り返し描かれました。

サントリー美術館がこの狩野元信による『酒伝童子絵巻』を「ビギンズ」と位置付けたのは、この一連の流れて描かれた酒吞童子伝説の「最初」だからということなのでしょう。

これは大変貴重な資料でありながら状態が悪かったため、今まで公開されてきませんでした。2020年に解体修理を終えたため、この度の公開となったということです。

 

狩野元信『酒呑童子絵巻』

概要

絵巻は上巻・中巻・下巻に分かれており、それぞれ物語の合間に絵を挟む形式で描かれています。文章と絵の割合はほぼ1対1で、物語も、いわゆる「絵本」のように省略したものではなく、しっかりと書かれています。

色鮮やかで細部まで描かれた絵

さすが、長くお手本にされてきただけあって、絵は物語の場面が変わるごとに描かれ、しかも非常に細部まで描き込まれ、色も鮮やか。

山伏に化けた頼光たちを鬼たちが迎える場面では、鬼たちは非常にバラエティーに富み、表情豊かに描かれています。角のあるもの、牙をむき出したもの、三つ目のもの。敵意をむき出しにしたもの、警戒心をあらわにしたもの、笑みを浮かべているもの。まるで「百鬼夜行」を見るようです。

昼間の容顔美麗な酒吞童子と、夜になって鬼の姿になった酒呑童子との対比。侍らされる姫君たちの美しさ。

戦いの場面では、手足をばらばらにされ血を流して倒れる鬼たちが生々しく描かれ、首を斬り落とされてなお頼光にかみつく酒呑童子の首はまるで動いているかのように躍動感たっぷりに描かれます。

当時の人々にとっては、この絵巻物は、今で言うなら最新CGを駆使したファンタジー大作映画のように映ったのではないでしょうか。

ベースになったと思われる物語、『御伽草子』や『大江山絵詞』との違いと共通点

物語の現代語訳は概要しか載っていなかったので細かい比較はできませんでしたが、何とか読み取れたところと現代語訳をつなぎ合わせてみたところ、ベースになった物語は、『御伽草子』の「酒吞童子」と『大江山絵詞』のどちらかに忠実、というわけではなさそうです。

たとえば、頼光らが酒呑童子の居城の近くで最初に会う洗濯女は、『御伽草子』と同じく、貴族の姫君となっていますが、その名は中御門花園の娘となっています。『御伽草子』では花園中納言の一人娘、『大江山絵詞』では200歳を超えた老婆とされた人物です。

また、酒呑童子が登場する場面では、「年は40くらいで容顔美麗」とされています。これは『大江山絵詞』の記述に近いものがあります。

『大江山絵詞』は、南北朝後期から室町時代にかけて成立した最古の酒呑童子本ですが、『御伽草子』は鎌倉時代から室町時代にかけて成立した説話がまとめられたもので、大衆に流布し盛んに読まれるようになったのは江戸時代。

この段階では、御伽草子のもとになった「酒吞童子」の物語と、『大江山絵詞』に描かれた酒呑童子の物語が並立していたことを思わせます。

といっても、物語のあらすじは概ね一致しています。

たまなぎとしては、『御伽草子』版ではなくなってしまった「酒呑童子が美形」という一文が残されたいたのは嬉しいですね。

 

まとめ

・サントリー美術館蔵「酒伝童子絵巻」は、1522年に狩野元信の手によって製作が始まった、大変貴重な資料である。

・酒吞童子伝説は後に狩野派の画題の一つとなり、繰り返し描かれた。

・この絵巻に書かれた物語は、さらに古い『大江山絵詞』の記述が残っているが、江戸時代に成立した『御伽草子』と共通する記述もある。

 

長くなりますので続きは後日に。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

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