医療・心のケア

災害後の心のケアのあり方について②大切な人を失ったら

はじめに

皆さん今日は、珠下なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます!

2024年元旦の地震を受けて、しばらくたまなぎブログでは、災害後の心のケアについて、一般の方に知っておいて頂きたいことを連載します。落ち着いたら歴史記事・推し活記事を再開させて頂きます。

この地震で親しい方を失った方・安否が分からない方も数多くおられることと思います。心からお悔やみ致しますと共に、災害で親しい方を失った方やその周りの方に知っておいていただけると役立つことをお話いたします。

 

悲嘆反応

家族や親しい人を亡くした時、激しい悲しみの感情が起こるのは自然なことです。

悲しみの感情の他にも、気力が低下したり、注意が散漫になったり、物事に対する反応が鈍ったりすることもありますし、動悸や頭痛、息切れ、胃腸の不調など、体の症状が出る場合もあります。

 

中には、うつ病と思われるほどの激しい症状や自殺の願望、食欲不振、記憶障害、絶望、あるいは幻覚や妄想などが見られることもありますが、死別の体験後直後の場合は、これらは正常な反応であることがほとんどです。

前回の記事で、「トラウマ反応は異常な状況に対する正常な反応」と述べましたが、これらの症状は悲嘆反応と呼ばれ、「死別に対する正常な反応」です。

 

悲嘆反応にはどう向き合ったらよいか

大切なのは、十分悲しむこと

トラウマ反応の場合と同じく、これらは正常な反応であり、また、その後の回復のために必要なことです。

悲しみや喪失感を否定したり、押し殺したりすることは、逆に悲嘆からの回復を遅らせることになります。

この段階では、十分に悲しみを表し、十分に悲しむことが大切なのです。周囲の人も、その悲しみを受け入れ、決して否定したりしてはいけません。

 

絶対にかけてはいけないNG言葉

周囲の人に注意してほしいのは、悲嘆反応を見せる人に対して悲しみを否定する言葉は、基本的にNGだということです。

「悲しんでばかりいると亡くなった人が浮かばれない」「早く元気になることが亡くなった人のため」などという言葉は、決して悪意からではなく、善意からかけられることの多い言葉ですが、精神医学の立場からすると、この時期には決してかけてはならない言葉です。

この時期のこういった言葉は、本来表出されるべき悲しみを押し殺してしまうことで、その後の回復に大きな妨げとなるからです。

 

災害による死は悲嘆反応を長引かせやすい

悲嘆反応は通常の場合は、時間と共に回復していき、今度は辛い体験を受け入れ、新たに人生に向き合う時期に入ります。しかし、悲嘆が長引く場合も往々にして見られます。

 

一般的に、予期できない死、事件・事故・自殺などによる死、子どもの死、配偶者の死、幼い子どもを残した母親の死、繰り返される死別体験などは、悲嘆の回復を妨げるといわれています。

東日本大震災や今回の地震のような災害の場合には、これらの要素が当てはまる方は非常に多いと思われます。

災害による死別を経験した場合に悲嘆反応が長引きやすいことは、被災された方も周囲の方も、ぜひ心に留めてほしいと思います。

傍から見れば「いつまでも泣いてばかりいて……」と思われるようなことでも、その方にとっては必要な悲しみの過程であることも多いのです。

悲しみを自分自身で押し殺すことや、他人によって否定されることは、回復を大きく妨げます。

災害時のように、多くの方が身内を亡くされた場合は、「親しい人を亡くしたのは自分だけではないのだから」と自分自身で悲しみを否定してしまうこともあるでしょう。また、「悲しんでいるより復興のために頑張らなければ」と自分自身からも他人からもプレッシャーをかけられることもあるでしょう。

このようなプレッシャーも、悲嘆反応を長引かせる要因になり得ます。

 

回復の過程に移るには

それでは、長引く悲嘆反応から回復の過程に移るには、どうすればよいのでしょう。

繰り返しになりますが、、自分自身の中の悲しみの感情を認め、決して否定しないことが大切です。

周囲の人も、積極的な聞き手となり、その人自身のペースで悲しみを表現することを手助けすることが大切です。

故人のことについて無理に聞き出してはいけませんが、故人のことについて話をされれば、積極的に耳を傾け、その人の悲しみに寄り添うことが大切です。

悲しみが正常な形で表出され、その人自身に受け入れられた時、その人はもう次のステップに進みつつあるのです。

そして次のステップでは、その人は、親しい人を失ったために変化してしまった自分の世界に、新たに適応していくのです。

医学上はそのような表現になりますが、医療者としての立場を離れると、「死者となった親しい人と、新たな絆を結ぶ」と言ってもいいかもしれません。「その人を死者として心の中に位置づけること」とも言い換えられます。もう少し深い考察もありますが、長くなりますのでご興味ある方は、こちらをご覧下さい。

死者の行方1~柳田國男「先祖の話」より~ | 物語る心療内科医・珠下なぎのブログ (ameblo.jp)

死者の行方2~生きている死者~ | 物語る心療内科医・珠下なぎのブログ (ameblo.jp)

死者の行方3~喪の作業を民俗学的視点から検証する~ | 物語る心療内科医・珠下なぎのブログ (ameblo.jp)

 

おわりに

いかがでしたでしょうか。

被害に遭われた方やその支援者の方に、少しでも参考になれば幸いです。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

 

 

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