医療・心のケア

災害後の心のケアのあり方について①災害後に起こる心の変化と回復のコツ

はじめに

皆さん今日は、珠下なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます。

さて、先日予告しましたとおり、今回より数回に分けて、災害後の心のケアについての記事を連載しようと思います。

 

心のケアについての今後の記事予定

本日から連載を始める記事は、東日本大震災の後、かつてamebloに連載していた記事を改稿したものです。

大きな災害時は身体だけでなく、心にも大きな傷を残します。

しかし、非常時においては、身体的なケアに比べて、心のケアについては後回しにされがちなこともあります。

そこで今回から、

①大きな災害時にどのような心の変化が起こるか

②親しい人を亡くした時

③心の回復に必要なこと

④支援者が心がけること

に分けて、非医療従事者の方ができること、知っていてほしいことについて分かりやすくお話しようと思います。(予定は変わる可能性があります)

それでは本日は、「大きな災害時にどのような心の変化が起こるか」についてお話したいと思います。

 

大きな災害後に起こる心の変化

トラウマとは

大きな災害・犯罪・戦争など、非常に強い衝撃を与えるような出来事に遭遇すると、心に体験が記憶として残り、のちのち精神的な影響を与え続けることがあります。これがいわゆるトラウマです。トラウマとは本来外傷=ケガのことです。つまり、いわゆるトラウマは、「心がケガを負った状態」と考えてよいと思います。

この心のケガを、トラウマ反応といい、大きく次の三つに分けられます。

① PTSD症状

② 感情の変化

③ 対人関係の悪化

 

①には、次のようなものがあります。

・侵入……トラウマとなった体験をいやでも思い出してしまい、そのときと同じ気持ちが蘇ってしまう

・過覚醒……不安でいらいらし、眠れなくなる

・麻痺……トラウマ体験に対しても、今の自分や周囲に対しても、別の世界のことのように感じられ、心が麻痺してしまう

 

② には、怒り、気分の落ち込み、無力感・悲哀・罪悪感などが含まれます。

 

最後に③です。トラウマとなった大きな体験後、その体験を自分の中でうまく意味づけられず、孤立感を深め、その結果周囲から本当に孤立してしまうことがあります。また、②の結果として、社会的に不適切な行動を取り、孤立してしまう場合もあります。

 

トラウマ反応自体は正常、だが長引くと問題

ただ、トラウマ反応自体は正常な反応であり、誰にも生じるものです。

破局的なストレスに直面すれば、これらのうち何らかの反応が生じるのはある意味当然のことで、「異常な事態に対する正常な反応」ともいえます。

そして、トラウマ反応の多くは自然に軽快するといわれています。ですから、大きな災害直後にこれらの反応が起こったからといって、それほど心配する必要はありません。

 

けれど、このうち①が一ヶ月以上も持続するようであるとPTSDと診断されます。

②が続くと、うつ病を発症したり、コントロール困難な行動によって人格障害と間違われたりすることがあります。

また、③が続くと、社会的不適応を起こしたり、ひきこもりになってしまったりすることがあります。

 

また、これらの心の問題が原因で、全身がだるい、息苦しい、頭痛や腹痛がするなど、多彩な身体症状が現れることがあります。

これはいわゆる心身症=心が原因で起こる体の病気です。(たまなぎが専門とする心療内科は、精神科の軽症患者を診る科のように誤解されることが多いですが、本来心身症の患者さんを診る科です)

もともとお酒やギャンブルが好きな人だと、苦しみから逃れたいあまり、アルコール依存症やギャンブル依存症になってしまうこともあります。

それほど、大きな災害というものは、ありとあらゆる心の問題を引き起こす原因となりえるものなのです。

 

よくなるためのコツ

前項でも述べたように、トラウマ反応の多くは自然に軽快するといわれています。

詳しくは後日述べますが、ここでは簡単にエッセンスだけに触れます。

まず、本人ができることには次のようなものがあります。

・無理せず定期的に休みを取る

・つらい気持ち、悲しい気持ちを我慢せずに言葉にする

・友人や家族、周囲の人と体験や感情を共有する

 

気持ちを言葉にし、誰かに聞いてもらうだけでも、心はずいぶんと軽くなります。

しかし、簡単なようでいて、これは意外と難しいことです。

特に、大きな災害の直後は、「みんな我慢しているのだから」とつらい気持ちを口に出すことをためらわれる空気があることも少なくないでしょうし、休めと言われてもなかなか休めないかもしれません。

また、日本人には、「愚痴を言わない」ことを美徳とする習慣があるため、つらい気持ちを口に出せない人も少なくありません。

周囲の人も、つらい思いをして苦しんでいる方がおられたら、どうぞ気持ちを聞いてあげて下さい。間違っても、「みんなしんどいんだから愚痴を言うな!」などと怒らないで下さい。

それだけでもかなり違います。

 

 

最後に

徐々にブログ記事をアップしていくつもりですが、こんな時期ですので、「今すぐ対処法を知りたい! 待てない!」という方もおられるかと思います。

その方は過去の記事でよろしければこちらもご参照下さいませ。古い記事で読みにくいですので、順次改稿して本ブログにアップしていきます。

第1部「心のケアのあり方」についてのまとめ | 物語る心療内科医・珠下なぎのブログ (ameblo.jp)

 

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

(参考文献;金吉晴『心的トラウマの理解とケア 第2版』じほう,2006年)

 

 

 

© 2024 たまなぎブログ by LTA出版事業部