サブカル チェリまほ

「チェリまほ論」②多様な「幸せ」の形を肯定する作品の魅力

皆さんこんにちは、珠下なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます。

 

主役のカップルを赤楚衛二さん・町田啓太さんが演じられ、映画も大ヒット中の『チェリまほ(30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい)』。

本日はこの作品について、比較的真面目な考察を書きます。

今回はネタバレはしません。

今からドラマや映画をご覧になる方、原作をお読みになる方でも、問題なく読んでいただける記事にしております。

以下、男性同士の恋愛を描いた作品群についての言及があります。不快に思われる方は閲覧をお控え下さい。

 

『チェリまほ』は、ジャンルで言えば、男性同士の恋愛を描いた「BL(ボーイズラブ)」と言われる分野に分類されます。

日本におけるBLの歴史は古く、1970年代にさかのぼります。

この時代のBLの代表作は、少女漫画の巨匠、竹宮恵子先生による『風と木の詩(うた)』。

1976年から『週刊少女コミック』で連載が始まったこの作品。

その生々しさから物議をかもした作品で、最近のBLとはかなり傾向が違い、色々な意味で重いです。

この作品について、心理学者として高名な河合隼雄先生が、「少女の内界を表現するのにピッタリ」と評されています。

河合先生が言われるように、この時代のBLは、実際の同性愛の少年たちの恋愛模様を描くというよりは、女性・特に少女の内面の投影、ファンタジーとして描かれる傾向が強くありました。読者もほぼ女性。

1990年以降になると、『風と木の詩』の時代とは異なり、明るく軽いタイプの学園ものなどのBLが量産されるようになりました。けれど読者の多くが女性であるという傾向はあまり変わらなかったように思います。

ところが近年になって、この傾向には変化が生まれてきたように思います。

SNSを見ていると、『チェリまほ』には少なからず男性ファンもおられますし、いわゆるゲイの男性だけでなく、ストレートの男性もおられるようです。

LGBTQへの理解が少しずつ進み、様々な形の恋愛が肯定されるようになった証左かもしれません。

 

けれど『チェリまほ』の世界は、それよりさらに一歩進んでいるように思えるのです。

『チェリまほ』には、性的指向(どの性を恋愛対象とするか)があいまいにされている人物、性的指向が変化しうる人物、それからドラマではアセクシャル(他者に恋愛感情を抱かないセクシャルマイノリティの一つ)の人物が描かれています。

そして、お互いが自分とは異なる性的指向の人物を否定することなく、「その人が幸せであればいい」と優しく肯定する場面が、いくつも出てきます。

LGBTQについての解説は割愛しますが、『チェリまほ』についてはそこをあえて分類せず、様々な恋愛の形を認めているのも魅力の一つだと思うのです。

性的指向については、「生まれつきのものであるので変化しない」ことが、アメリカでは同性婚を推進するのに重要な根拠となってきましたが、性的指向が変化しうるものであることを示す研究もあります。

LGBTQの理解についてはまだまだ日本は後進国なので、もっと理解が進められるべきだと思いますが、チェリまほの世界はそこからさらに一歩進んで、「分類せず、型にはめず、恋愛に対して様々な形を認める」ことを提唱しているように思えるのです。

これは、どんな恋愛の形を選択しても、あるいは選択しなくても、その人が幸せであればいい。という究極の優しさ。

私がチェリまほを「多様な「幸せ」の形を肯定する作品」と評するのは、こんなところにも理由があるのです。

 

最後まで読んで下さって、ありがとうございました!

 

 

 

 

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