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日本最古のBLファンタジー小説『秋夜長物語(あきのよながのものがたり)』

皆さん今日は、珠下(たまもと)なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます!

 

さて、前回で香椎宮シリーズはいったん終わりとさせて頂きました。

今回はちょっと趣向を変えて、『御伽草子』の中の異色の作品を紹介させて頂こうと思います。

それは、『秋夜長物語(あきのよながのものがたり)』日本史上最古のBLファンタジー小説です。

 

1.日本におけるBL小説

日本における広い意味でのBL小説は、江戸時代以前は「男色物」と呼ばれ、特に男色が流行した江戸時代前期にはたくさんの物語が生まれました。

室町時代以前では、中でもいわゆる「稚児物語」と呼ばれるものがその多くを占めます。(「稚児」とは本来幼い子供を指す語ですが、平安時代になると、様々な理由で寺に預けられている12歳から18歳くらいの少年を指すようになります。行儀見習いや政争からの避難として預けられている上流階級の子もいれば、勉学が目的の子、下働きなど様々です)

Wikipediaによると、「稚児物語」は次のようなものです。

稚児物語(ちごものがたり)は、中世から近世初頭にかけて書かれた物語の類型。寺院における僧侶と稚児の間の愛執をテーマに描いたものである。

中世、特に室町時代において、寺院内部では稚児を対象とした男色(稚児愛)が広く行われていたことが背景にある(ただし、男色の流行自体は武家などにもあった)。鎌倉時代の『宇治拾遺物語』などにもこうした作品が取り上げられていたが、独立した作品として本格的に取り上げられるようになったのは室町期以後である。代表的なものとして『秋夜長物語』・『あしびき』・『松帆浦物語』・『嵯峨物語』などが知られている。

こうした物語はそのテーマの性格上、稚児の死による別離など悲劇的な幕引きをする作品が多かった。

ここに挙げられているように、『秋夜長物語』は、「稚児物語」の中でも最古の部類に入ります。

「男色本」のはしりとも言われており、『酒呑童子』などの幻想的で魅力的な物語を多く収録した『御伽草子』の中の一編です。14世紀ごろの成立と言われています。想像上の生き物も登場し、さしずめ「日本最古のBLファンタジー小説」といったところでしょうか。

 

2.『秋夜長物語』とはどんな物語か(ネタバレなし)

後堀河天皇の時代、瞻西上人(せんせいしょうにん、? - 1127年)がまだ比叡山で桂海律師であったころ、美しい稚児を夢に見ます。桂海は愛欲に苦しみますが、三井寺の前を通りかかったとき、夢に見た稚児とそっくりな少年に出会います。少年は花園左大臣の子で、三井寺聖護院の稚児でした。二人はやがて惹かれ合いますが……。

 

瞻西上人は実在の人物で、雲居寺大仏を造立したことで知られています。

この物語は、想像上の生き物も登場し、スケールの大きな物語に発展していきます。

また、9世紀後半から数百年にわたって続いた、天台宗の内部抗争「山門寺門の争い」を背景として描いています。

 

『御伽草子』にはありがちですが、争い合う人間の愚かさ、愛欲と人の命の儚さ、仏と縁を結ぶことの大切さなど、仏教的なテーマが全編にわたって貫かれています。

桂海が夢の中で稚児に出会う場面など、非常に描写が美しく、夢の世界にいざなう幻想的な物語でお勧めです。

しかし、このような物語を読んでいたのは誰だったのか。たまなぎはそちらに興味がいってしまいます。14世紀にも腐女子って存在したんでしょうか。

 

3.『秋夜長物語』あらすじ(ネタバレ注意!)

もっと詳しく内容を知りたい、ネタバレOKな方は次をお読み下さい。

自分で読みたい、ネタバレNGな方はここでストップ!!

 

 

 

よろしいですか?

それでは物語の詳細をご紹介することに致しましょう。

 

比叡山の僧・桂海は、文武両道に優れた僧でしたが、血気盛んな青年の頃、煩悩に悩まされる時期がありました。日夜修行に励みながらも煩悩を断ち切ろうと、山に庵を結んで修行の生活に入る決心をしようとしますが、仲間への思いなどからなかなか踏み切れません。そこで石山寺に、「仏の道を究める心を強固なものにしてください」と7日間の願掛けをします。ところが、満願となった7日目の夜、夢にこの世のものとは思えぬ美しい稚児が現れます。桂海はこれぞ満願成就の兆しかと喜びますが、逆に稚児への愛欲に苦しむようになります。そこで再び石山寺に詣でようと出かけた時、三井寺の前を通りかかり、夢で見た稚児にそっくりな、美しい少年に出会うのです。

 

桂海が見初めた美少年は花園左大臣の子で梅若といい、三井寺聖護院の稚児でした。

しかし、その恋は冷静に考えれば多難なことは分かっていたはずです。三井寺と比叡山は、戒壇(僧の資格を与える場所)をめぐって数回にわたって武力闘争をくり返してきたからです(これは史実です)。

 

桂海は、そんなこともすぱっと忘れ、まして修行生活への決意などどこへやら(笑)。あの手この手を尽くして梅若の気を引こうとします(煩悩まみれやん)。やがて梅若も桂海に惹かれるようになり、二人は結ばれます。

 

一度結ばれた後は、今度は梅若が桂海への恋情を抑えられなくなります。ひと目桂海に会いたいと、供の桂寿と共にこっそり寺を抜け出して桂海のもとに向かった梅若は、山伏に化けた天狗にさらわれてしまいます。

三井寺の僧たちは、梅若がいなくなったと知って激怒します。

「キーィ! あの比叡山のいけすかない坊主だな、オレたちの梅若を連れ去ったのは!! 親父の左大臣もきっとグルだ!」

三井寺の僧たちは左大臣邸を襲って打ちこわし、比叡山との間にある如意岳との山門を切り開いて、寺中を城郭のような作りにし、戒壇を造営します。

比叡山の僧たちは、これを見て激怒します。さきほども述べたように、戒壇を巡って比叡山と三井寺は長く武力闘争をくり返してきたのですから。

怒り狂った比叡山の僧たちは、三井寺を襲って焼き払ってしまいます。

 

一方、捕まった梅若は、天狗たちのこんな与太話を耳にします。

「うまい具合に梅若をさらってきたもんだ。このせいで三井寺と比叡山が合戦になったんだからなあ、うっしっし。三井寺の僧たちの逃げ回る様子ったら、もう、おかしくって、きゃっきゃっ」

自分がいなくなったせいで三井寺と比叡山が大きな争いになったことを知ってしまった梅若は嘆き悲しみます。ちょうど同時に天狗たちに捕まった竜神の力で牢を逃れた梅若が見たのは、跡形もなく焼き払われた生家と三井寺でした。

 

梅若は桂海への手紙を桂寿に託し、一人になると川に身を投げてしまいます。儚くなった梅若の姿に、桂海は嘆き悲しみますが、梅若の菩提を弔うことが自分の務めと、ついに決心を固め、なかなか踏み切れなかった修行の旅に出るのです。

その頃、合戦に敗れた三井寺の僧たちの前に、新羅大明神が姿を現します。大明神は、

「寺が焼けたと言って嘆くのではない。再建するために財物を施したり、焼失した経典を書き直したりすることで御仏への縁が生まれるのだ。梅若は石山寺の観音が化身した姿。僧桂海に悟りの心を開かせるために現れたのだ」と諭します。

僧たちは目が覚める思いで、桂海の庵を訪れます。桂海は質素な生活を送っていましたが、心は満たされている様子でした。瞻西上人と名を改め、晩年は多くの僧に慕われ、東山に雲居寺を建立し、生涯衆生を救うために力を尽くしたということです。

 

あらすじは以上です。

結末はやや説教臭く、あまりにも梅若が浮かばれないと言えなくもありませんが、恋の描写が大変美しい物語なので、ぜひご自分の目で確かめてみて下さいね。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

 

 

 

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