はじめに
皆さん今日は、たまなぎこと珠下(たまもと)なぎです。
初めての方は、初めまして。心療内科医でゆるく作家活動をしております、珠下なぎと申します。
ブログご訪問下さり、ありがとうございます!
最近ベルばら記事ばかりになっていますが、今日もまたベルばら記事です(笑)。
歴史記事もまた書きますが、当面はベルばらネタが多すぎて、しばらく続くと思います。
今回もネタバレしまくりのエピソード編感想続き。ネタバレが嫌な方や「そもそもエピソード編って何?」という方はは、こちらの記事をご覧下さい。
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『ベルサイユのばら』エピソード編初読感想①(ネタバレなし)
今回は、コミックス11巻収録分4番目のエピソード、アラン編の感想です。
アランとベルナール・ロザリー夫婦の出会い
バスティーユ陥落直後から始まるこのお話。
オスカルが撃たれた時、オスカルを庇おうとして腕に傷を負ったアランですが、その時の怪我は、本編から想像した以上に重かったようです。アランは自分を呼ぶロザリーの声で目を覚まします。
アランはバスティーユ陥落から10日間、生死の境をさまよったとそうです。ロザリーが、「こんなくらいの熱に負けてはだめよ!」「弾は取り出したわ!」と叫んでいますから、オスカルを庇って受けた銃弾が貫通せずに体内に残り、そこから細菌感染を起こしたのでしょう。若く屈強なアランが生死の境をさまようほどの状態だったということは、敗血症を起こしていたのかもしれません。
いちいち病態を理屈をつけて納得しないと気が済まないのは、職業病ですかね(笑)。
おっと脱線。瀕死のアランを看病してくれたのは、ベルナール・ロザリー夫婦でした。この場面を見ると、ずいぶんアランと親しいようです。
本編では、ベルナール・ロザリー夫婦とアランが直接からむシーンはごくわずか。アンドレの死の際にはベルナールが、オスカルの死の際にはロザリーが立ち会っていますが、そこくらいでしょう。しかし、命令拒否をしてアベイ牢獄へ送られていたアランたちが助かったのは、オスカルがベルナールに頼んで民衆を動かしてもらったから。ひょっとしたらその後、ベルナール・ロザリー夫婦とアランは顔を合わせる機会があったのかもしれません。
ついでに気になったのは、ベルナール・ロザリー夫婦の息子、フランソワは、オスカルが死んだ年に生まれています。ということは、この時二人は乳飲み子を抱えていたか、ロザリーは身重だったということですよね。もしフランソワがまだ生まれていなかったら、12月生まれだったとしてもそろそろお腹の大きくなり始める時期。本編でもエピソード編でも、ロザリーのお腹が目立つ描写はありませんから、もう生まれていたのでしょうか。だとしたらこの夫婦は乳飲み子を抱えて革命の一番大変な時期を乗り越えたことになりますね。改めて尊敬します。
あら、こんな考察も職業病かしら。
さて、目を覚ましたアランに告げられたのは、衛兵隊の仲間が全員戦死したという、辛い知らせでした。
史実では王室を裏切って民衆側についたフランス衛兵隊の隊長、ピエール・ユラン伍長はバスティーユを生き延びています。ここは史実を改変したのか。それとも、アランが班長を務める第1班が全滅したという意味なのか。それは分かりません。
しかし、わずか数日の間に、大切な仲間をことごとく失ってしまったアランの悲しみは、いかばかりだったでしょうか。
ヴァレンヌ逃亡事件後のパリ、ジャルジェ将軍との出会い
次の場面はいきなり2年後に飛びます。ヴァレンヌ逃亡事件失敗後のパリに。パリに連れ戻される国王一家に対し、「王政を廃止して共和制を!」と叫ぶ民衆。
アランはその光景を目の当たりにして、「何という取り返しのつかないことを」「人権宣言に忠誠を誓われた国王陛下が、民を見捨てて秘かに逃亡を企てるとは」と愕然とします。その様子からは、アランはこの時点では、王政の廃止までは考えていなかったと読み取れます。立憲君主制の下で、誰もが平等に法で守られる、そんな風に国の仕組みが変わっていくことを期待していたのではないでしょうか。
そこでアランは、意外な人物に出会います。オスカルの父、ジャルジェ将軍です。アランはどうしてジャルジェ将軍の顔を知っていたのでしょう。この二人、顔を合わせたことがあったでしょうか? 「オスカル嬢の婿選びパーティー」の時かな?あの時はオスカルが衛兵隊の兵士たちを招待してパーティーをめちゃくちゃにしてしまいましたが、あの時アランはいなかったのかと思っていました。オスカルに片思いしていましたし。実はこっそり紛れ込んでいたのかな? うーん謎。
それはともかく。この時アランはジャルジェ将軍に「パリは危険でございます!」と亡命を迫りますが、王党派のジャルジェ将軍はそれをはねつけます。そして、オスカルの母が亡くなったことを告げます。ショックを受けるアラン。
しかし、気を取り直したアランがジャルジェ将軍に問いただしたのは、オスカルの姪、ル・ルーのことでした。ル・ルーは本編には登場しませんが、外伝では行儀見習いとしてジャルジェ家にやって来ることになっています。あのまま革命の時までジャルジェ家に暮らしていたんですね。そのル・ルーは、故郷に帰されたとのこと。
しかし、ヴァレンヌ逃亡事件を受けて、王党派の強かった地方でも、民衆の蜂起が始まったとの情報が。ル・ルーの故郷も危ないらしいとの情報を得て、アランはパリを発つのです。
この時のアランを衝き動かしていたのは、亡くなったオスカルの代わりに、オスカルの大切な人を守りたいという気持ちでした。オスカルの生前は、オスカルへの思いから色々やらかしたアランですが、オスカルへの思いを単なるあこがれや恋ではなく、愛に昇華させたのですね。
ル・ルーとアランの一瞬の邂逅
ローランシーへ向かったアラン。ちらりとモンテクレール城が出て来るのも、ファンとしては嬉しいところ。最初の外伝、『黒衣の伯爵夫人』の舞台ですね。
ここでル・ルーついに登場! オスカルの姉一家も国外への亡命を決めたようですが、王党派貴族の亡命を阻もうとする民衆に馬車を停められてしまいます。
この時、ル・ルーは10歳!(のはず)
何という美少女に!
『黒衣の伯爵夫人』では、「わたしもいつかオスカルおねえちゃまのようなすっごい美人に……」と言って、アンドレに「それは無理だと思うよ……」なんて言われていましたが、なれてるじゃないですか! オスカルおねえちゃまのような美人に!
そしてこのル・ルーちゃんはおませでどこか大人を食ったようなところがありますが、大変勇気があり賢く、その上ちょっと不思議な力を持っています。取り囲む民衆に、「旅券と身分証はもうすぐ届くわ」と断言します。
そこに現れたのがアラン。二人は一瞬で、互いが探していた人だと分かった様子。アランが、ル・ルー一家が、バスティーユ陥落で名を挙げたオスカルの親族だと告げると、民衆は掌を返し、道を開けます。
「あなたの大切な方々をお守りすることができました」と心の中でオスカルに呼びかけるアラン。ところが……?
宿敵との出会い
何とも皮肉なことに、オスカルの大切な人たちを守ることができ、安らかだったろうアランの心は、一瞬で嵐に投げ込まれます。
その目に入ったのは、かつて妹ディアンヌの婚約者だった男。彼はアランと同じ貴族でしたが、金に目がくらんで婚約者を裏切り、金持ちの平民の娘と結婚します。それを苦に妹ディアンヌは首をつってしまい、悲しみのあまり母も後を追うように亡くなってしまいます。
その裏切り者の男が、今、ル・ル―一家と同様に、亡命しようとして民衆に行く手を阻まれているのです。
銃口を向けるアラン。しかし、男の身重の妻は、身を挺して男をかばおうとします。一方男の方も、妻を巻き添えにすることはできないと、「彼女とお腹の子は助けてくれ! 撃つなら私を撃ってくれ!」と叫びます。
「いい覚悟だ」と男に銃口を向けるアラン。しかしその時耳元に囁く声が。「武官はどんな時でも感情で行動するものじゃない」。アンドレの声です。
このセリフはアンドレの左目を潰された怒りのあまり、黒い騎士の目を潰そうとしたオスカルを、アンドレが止めた時のもの。そして、7月13日、アンドレを失い、気が狂ったように「私を撃て」と叫んだオスカルの胸によみがえったセリフです。ですから、アランがこのセリフを知るはずがないのですが……?
アンドレの霊は、ずっとアランを見守っていたのでしょうか。ここに限らず、エピソード編は、ところどころにちょっとファンタジーが入っていますね。
思いとどまり、妹の仇のために通行証を見せてやるアラン。「あの人を許してくれてありがとう」とディアンヌの声がどこかから響きます。
「これ以上流血を見たくなかっただけだ」「その時おれは予感していたのかもしれない 革命がまだまだその先も多くの人々の血を流さずにはいないだろうことも」独白するアラン。これから彼が見ることになる、さらに激動の時代を予感させて、物語は終わります。
アランというキャラ
アランというキャラは、本編では後半にしか登場しませんが、下級貴族の窮状をオスカルに教え、そして貴族の身でありながら革命に身を投じるという、フランス革命を単に「貴族VS平民」という図式に単純化しない、大切な役割を負っています。そして、彼は革命後も国民衛兵となって軍人を続け、『ベルサイユのばら』の続編『栄光のナポレオン(エロイカ)』では、ナポレオンの下で将軍にまで出世します。
革命後の、オスカルやアントワネット、フェルゼンが見ることができなかった歴史を見届けるという、重要な役割を負わされているのです。
そして、ナポレオンが帝政を敷こうとしていることを知ったアランは、ベルナールと共にナポレオン暗殺を計画、失敗しその場で命を落とします。
アランは、オスカルやアンドレ、大切な衛兵隊の仲間たちが命をかけて切り開いた新しいフランスを見つめ続け、守ろうとし、それに殉じました。ベルナールやロザリーと共に、『ベルサイユのばら』の魂を引き継いだ大切なキャラです。
ですから、革命後に引退して農夫やってるなんてありえないのですよね(旧アニメ)。アニメ版で農夫にされてしまったことを訂正するために、『栄光のナポレオン(エロイカ)』を理代子先生が描いた、という情報もあります。また某監督の悪口になりますが、ベルばらの描きたかったことを、何ひとつ分かってなかったのですよね、あの人は。いや、分かっていてわざと潰した向きもありますよね……向こうの世界でお会いしたら、ベルばらファンで取り囲んで小一時間説教しましょう、そうしましょう!
まとめ
・『ベルサイユのばら』マーガレットコミックス11巻のエピソード編④『アラン編』の感想
・このエピソードでは、バスティーユ後の、ヴァレンヌ逃亡事件直後までのアランが描かれる。
・アランはオスカルの大切な人を守ろうとし、ル・ル―一家の命を救った。
・アランはベルばらの登場人物立ちが、命をかけて切り開いた新しいフランスを見つめ続け、守ろうとし、それに殉じた。ベルばらの魂を引き継いだ重要なキャラである。
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