はじめに
皆さん今日は、たまなぎこと珠下(たまもと)なぎです。
今日も来て下さって、ありがとうございます!
さて、今日もベルばらエピソード編の感想の続き……と行こうと思ったのですが、先日読んだ、池田理代子先生の『フランス革命の女たち―激動の時代を生きた11人の物語―』が想像以上の読み応えでしたので、先にご紹介することにします。
『フランス革命の女たち―激動の時代を生きた11人の物語―』内容紹介
『フランス革命の女たち―激動の時代を生きた11人の物語―』は、フランス革命期に生きた11人の女性たちの生涯を、歴史的背景とともに描いた作品です。
本書では、革命の嵐の中で個性豊かに生きた女性たちが取り上げられています。主な人物として、マリー・アントワネットやルイ15世の寵姫デュ・バリー夫人、ナポレオンの初恋の人デジレ、女流画家ヴィジェ・ルブランなどが登場します。また、革命の過渡期を生き抜いたロラン夫人、テロアーニュ・ド・メリクール、シャルロッテ・コルデー、リュシル・デムーランといった女性たちも紹介され、彼女たちの運命が詳細に描かれています。
フランス革命の時代の女性
本書では、『ベルサイユのばら』では描ききれなかった歴史の真実に焦点が当てられ、女性たちが直面した過酷な現実が浮き彫りにされています。
フランス革命は「自由・平等・博愛」を掲げ、「人権宣言」が採択されましたが、「人権」とはあくまでも「白人男性」のものであり、女性や有色人種はその中には入っていませんでした。(これは令和劇場版パンフレットでも理代子先生のインタビューで触れられています)。
この時代女性の権利は軽視され、女性が社会進出することは、むしろ有害とみなされていました。
本書で取り上げられた例でいえば、ロラン夫人は夫を盾に政治活動を行いましたが、結局処刑され、テロアーニュ・ド・メリクールはすさまじい迫害の末に精神を病み、後半生を精神病院で過ごしました。
本書が書かれた背景
本書が書かれた背景は、「あとがき」に書かれています。
それは、『ベルサイユのばら』が描かれた後、専修大学で理代子先生が講演された際、専修大学の「ミシェル・ベルンシュタイン文庫」を見られたのがきっかけだったということです。
この文庫は、フランスの古書籍商ミシェル・ベルンシュタイン氏による、フランス革命期のコレクションで、フランス革命期に実際に書かれたり印刷されたりしたものから成り、その規模はフランス国立図書館に次ぐものだとされています。専修大学が創立百周年記念事業として買い上げたものです。
それを実際に目にされて、理代子先生は衝撃を受けられたと言います。
フランス語の「人権宣言」は、明らかに「男性」と「男性市民」(それも白人男性)」のための人権宣言であり、ここで謳われている「人権」の中には、「女性」や「有色人種」などの人権は含まれていないのだということが、はっきりとした現実感をもって認識されたのです。
『フランス革命の女たち―激動の時代を生きた11人の物語―』新装版あとがきより
理代子先生の女性観
本書は1985年に、『フランス革命の女たち』として新潮社から刊行され、2021年に新装版として刊行されました。
新装版あとがきには、執筆当時の心情をふり返り、
「私が如何に当時の女性たちが置かれていた社会的不平等に、激しい怒りを抱いていたか」「如何に、進歩的と言われる革命派の男性たちが、女性の社会進出を恐れ、憎み、知性を持ち目覚め始めた女性を家庭に押し込もうとやっきになっていたことか。最後には、そういう女性たちをギロチンに送り込んだのですから、無茶苦茶な話です」
このようにつづられています。
そして、日本の経済や政治に占める女性の割合の低さについても、強い怒りと懸念を示されています。
本書は、理代子先生の女性観を知ることが出来、また、それを通じて理代子先生が『ベルサイユのばら』で描きたかったことを垣間見ることが出来る、大変貴重な資料です。
ベルばらファンの方は、ぜひお読みになることをお勧めします。
本書を読んで改めて思ったこと~ジャルジェ将軍は「毒親」だったのか?
本書を読むと、革命期のフランスにおいて、いかに女性という生き物が「人間未満」であったかが、よく分かります。
そうしてみると、『ベルサイユのばら』の主人公の一人、男として育てられた男装の麗人オスカル・フランソワ、彼女の人生の意味も改めて見えて来るのではないでしょうか。
男児に恵まれなかったため、末娘を「(社会的に)男として育てる」という横暴をやらかしたオスカルの父・ジャルジェ将軍は一部の方からよく毒親のレッテルを貼られています。
現代的な感覚ではそうでしょう。
しかし、女性があくまで「人間未満」であったこの時代、オスカルは社会的に男だったからこそ、人間としてはより自由に、より充実した生を全うすることができました。
これについては以前にも記事を書いています。詳しくは↓
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【緊急投稿】『ベルばら』のオスカルは、果たして「男として生きることをを強制された不自由な女性」だったのか?
娘を男として育てる、ということは今の時代であればとんでもない虐待ですが、女性が人間未満だった時代に男として育てられるということは、不完全ではあるにせよ、そのまま女性として育てられるよりもはるかに、一人の人間として確固たる基盤を手に入れることでもあったのです。
ジャルジェ将軍も、単にオスカルを家の名誉のために利用するのではなく、彼女を一人の人間として認め、最後には「おまえの選んだ道をその情熱の命ずるままに行くがよい」と、その選択を尊重します。
革命前夜に結婚を進めるなど、ブレた行動をとることもあったジャルジェ将軍ですが、それもあくまでも娘の幸せを願ってのこと。そんなジャルジェ将軍が「毒親」であるとは、たまなぎにはどうしても思えないのです。
そして、あの時代に、あくまでも男性の付属物であり所有物でしかなかった女性たちが生きることができなかった、「一人の人間としての生を全うした女性」として、女性たちの希望の象徴として、理代子先生はオスカルという人物を描いたのではないか。
そういうふうにも思えてくるのです。
さいごに
・『フランス革命の女たち―激動の時代を生きた11人の物語―』は、『ベルサイユのばら』の作者池田理代子氏が、フランス革命期に生きた11人の女性たちの生涯を、歴史的背景とともに描いた作品である。
・フランス革命時代には女性たちは軽んじられ、「人権宣言」には女性は含まれず、進歩的と言われた革命家の男性たちでさえ女性の社会進出を阻んだ。
・本書は、フランス革命期の人生について詳細に描かれているだけでなく、池田理代子氏の思想をうかがい知ることのできる貴重な資料である。
・本書を読んで『ベルサイユのばら』を読み直すと、作者が作品にこめたメッセージを改めて感じ取ることができる。
ベルばらについては他にもいくつか記事を書いています。気になった方はご覧下さい!
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!