『大江山恋絵巻』 物語 作品解説&エピソード

茨木童子の性別は? 酒呑童子との関係は?

はじめに

皆さん今日は、珠下なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます!

本日はたまなぎの新作『大江山恋絵巻~人の巻~』のキャラ紹介も兼ね、茨木童子についての記事です。

以前こちらの記事で茨木童子伝説についてご紹介しましたが、本日は各地に残る出生譚・生い立ちに関する伝説も踏まえ、その人となり(鬼となり?)に迫りたいと思います。

 

各地に残る出生譚・生い立ち

越後の伝説~酒呑童子との共通点

茨木童子は酒呑童子と同じく越後出身との説があります。越後にはこのような伝説が残されています。

美男子で知られ娘たちから山ほど恋文を送られていた外道丸こと酒呑童子同様、茨木童子も美少年として多くの女性に言い寄られ、将来を案じた母親に弥彦神社に送られることになった。ところがある時弥彦神社から実家に帰ると、母が行李の中に隠した「血塗の恋文」を見つけた。その血を指で一舐めするとたちどころに彼は形相が変わり鬼となり、梁をつたい破風を壊して逃げていった。(Wikipediaより、赤字筆者茨木童子 - Wikipedia

 

おや、酒呑童子の伝説と共通点がたくさんありますね。

①美少年だった

②多くの女性に恋文を送られていた

③恋文がきっかけで鬼となった

違いとして気になったのは、酒呑童子が預けられたのが寺、茨木童子が預けられたのが神社であったこと。これは何を意味するのでしょうか。

同じくWikipediaによると、酒呑童子は蒲原郡の砂子塚(現・新潟県燕市砂子塚)生まれで国上寺の稚児だったが、茨木童子は古志郡の山奥の軽井沢(現・新潟県長岡市軽井沢)の生まれということです。地図で調べるとその距離は約34km。庶民の交通手段が徒歩しかなかった平安時代でも、十分行き来できる距離ですね。

 

摂津の伝説~酒呑童子に育てられた茨木童子

茨木童子の出生地としては、摂津説もあります。

① 摂津国の富松の里(現・兵庫県尼崎市)で生まれ、茨木の里(茨木市)に産着のまま捨てられていたところを酒呑童子に拾われ茨木の名をつけて養われた。(『摂陽群談』(1701年))

②茨木童子は川邊郡留松村(富松と同じく尼崎市の一部)の土民の子であったが、生まれながらに牙が生え、髪が長く、眼光があって成人以上に力があったので、一族はこの子を怖れて島下郡茨木村の辺りに捨て、酒呑童子に拾われた。(『摂陽研説』)

③茨木童子は水尾村(現・茨木市)の生まれだが、16ヶ月の難産の末に生まれたときにはすでに歯が生え揃い、生まれてすぐに歩き出して、母の顔を見て鋭い目つきで笑ったため母はショックで亡くなった。父は鬼のような赤子を持て余し、隣の茨木村の九頭神(くずがみ)の森近くにある髪結床屋の前に捨て、以後茨木童子は子のいなかった床屋夫妻の子として育った。幼くして体格も力も大人を凌いだ童子を床屋も持て余したが、床屋の仕事を教えて落ち着かせることにした。ところがある日、童子はかみそりで客の顔を傷つけてしまい、あわてて指で血をぬぐったものの、指をきれいにしようと血をなめるとその味が癖になってしまい、以後わざと客の顔を傷つけては血をすするようになった。床屋に怒られた童子は気落ちして近くの小川の橋にもたれてうつむいていると、水面に写る自分の顔がすっかり鬼になってしまっているのに気づき、床屋には帰らずに北の丹波の山に逃げ、やがて酒呑童子と出会い家来となったという。(大阪府茨木市の伝承)

 

①②の伝承はかなり似ているので、もとになった伝説は共通しているしているのかもしれません。ここで重要なのは、「茨木童子は捨て子であり、酒呑童子に育てられた」というものです。

③の伝承も興味深いものです。それは、「血」がきっかけで鬼になった、という越後の伝承と共通点を持つこと。

また、異常に長い妊娠期間、異常に早い発達など、酒呑童子伝説とも共通するものがありますね。

 

茨木童子は女性だったのか

出生譚を見ていくと、茨木童子が男性であったことは明らかです。

しかし、酒呑童子・茨木童子伝説をもとにした創作物には、茨木童子を女性としたものが散見されます。これはどうしてでしょうか。

おおまかに言いますと、茨木童子伝説で最も有名なものの一つに、「渡辺綱に腕を斬られ、それを後日取りもどす」というお話があります。この話は様々な本や芸能で取り上げられ、少しずつ違いがあるのですが、その中にこの話に登場する鬼が「羅城門の鬼女」「宇治橋の鬼女」とされているものがあるのです。そのため茨木童子=女性とされているのでしょう。

このお話についてはこちらの記事で詳しく比較していますので、興味のある方はこちらをご覧下さい。

それから、これは女性と断定するには弱い根拠ですが、『御伽草子』の中には、茨木童子が討たれるシーンで、「頼光が茨木童子の細首を打ち落とした」という表現があります。

細首……。この表現にちょっと萌えてしまったたまなぎ。なぜか気になる方はぜひ『大江山恋絵巻~人の巻~』をお読み下さい(いきなり宣伝)。

 

酒呑童子と茨木童子の関係

さて、最後に酒呑童子と茨木童子の関係です。

これについても諸説があります。

最初の項の越後での出生譚の続きでは、「茨木童子は鬼になった後に酒呑童子と出会い、気投合して近くの村を荒らしまわっていたが、母が茨木童子の産着を身に着けて現れたため、この地を踏まぬことを誓って酒呑童子と共に京を目指した」とあります。

これだと酒呑童子と茨木童子は対等な友人同士に見えますが、『御伽草子』では、酒呑童子が茨木童子を「私が召し使っている鬼」と言っていますので、二人は主従関係にあったと思われます。

酒呑童子の方が年長だったからなのか、強かったからなのか。そこは判然としません。

 

また、摂津説では、茨木童子は酒呑童子に育てられていますから、「養い親と子の関係」ですね。

 

茨木童子が女の鬼だった、とする創作の中では、二人が恋人同士とするものもあるようです。

以前もご紹介した、高名なファンタジー作家の菊池秀行氏の『大江山異聞 鬼童子』では、茨木童子は女性として描かれています。

また、最近こんな小説(コミック版もあり)も見つけました。

『鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい』これは酒呑童子と茨木童子(女性)が夫婦で、現代に転生して幸せを目指す、というコメディもの。

これはこれで面白そうです!

……が、せっかく美少年の鬼同士が意気投合して生きる場所を探しに旅立つ……という素敵な展開が伝説にあるのに、わざわざ女体化(←言い方)しなくても……ゴニョゴニョ。

いや、聞かなかったことにして下さい(汗)。

 

たまなぎの『大江山恋絵巻~人の巻~』でもこの二人は主人公に次ぐメインキャラとして出てきます。

たまなぎの酒呑童子は男性的な美貌の持ち主で、大らかで気さくで明るく、ちょっとお人好し。(画像↓)

 

茨木童子は真面目で近づきがたく、中性的な美貌の持ち主。そしてツンデレ(←ここ重要)。(画像↓)

 

気になった方はぜひこちらをご覧下さい!

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まとめ

・茨木童子の出生には酒呑童子の出生と同じ越後という説と、摂津(大阪)という説がある。

・茨木童子の出生譚は、酒呑童子と多くの共通点を持つ。

・出生譚からは茨木童子は男性であることが明らかだが、渡辺綱に鬼が腕を斬られる話の中に、この鬼が「鬼女」とするものと「茨木童子」とするものがあり、茨木童子を女性とする創作物も存在する。

・酒呑童子と茨木童子の関係は主従関係・養父子の関係などとされており、茨木童子を女性とする創作物の中には恋人・夫婦とするものもある。

 

最後までお読み下さって、ありがとうございました!

 

 

 

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