皆さん今日は、珠下なぎです。
今日も来て下さって、ありがとうございます!
さてさて、Twitterをフォローして下さっている方はご存じかと思いますが、最近ちょこちょこTwitterにて拙著『遠の朝廷(みかど)にオニが舞う』の現パロを呟かせて頂いております。
そもそもは、私が『遠の朝廷にオニが舞う』の続編執筆中に詰まってしまった時、気分転換程度に始めたものだったのですが、思いのほかご好評を頂いております。
今日はクリスマスということで、あまり固い話題もどうかと思いましたので、今回は現パロのクリスマス編をお届けしようと思います。
1.設定
瑠璃子は福岡県筑紫野市の中学1年生。お父さまは地元の老舗企業の社長。鈴丸はお父さまの元敏腕秘書の忘れ形見で孤児。瑠璃子のおうちに下宿&家のお手伝い中。瑠璃子と同じ中学校の2年生。そろそろお互いを意識し合う年頃だがまだどちらも言い出せない。……という設定です。
それではどうぞ。
2.瑠璃子のクリスマスプレゼント選び
今年のクリスマスイブは土曜日。期末試験も終わり、しかも冬休み初日という最高の日だ。
(本当は、鈴丸と二人で過ごしたかったけどな……)
瑠璃子はふうっとため息をついた。息が白く凍る。白い鳥の羽のような雪がちらちら舞い始める。今年は九州では珍しい、ホワイトクリスマスになりそうだ。
そういう鈴丸は、朝から部活で出かけている。帰るのは夜になるということだ。
(まあ、クラスや部活のクリスマス会に行っちゃうとか、他の子に誘われたとかじゃなくてよかったけど)
瑠璃子は一人、地元のショッピングモールに向かった。鈴丸がいないのは残念だが、それならこっそり鈴丸へのクリスマスプレゼントを用意しようと考えたのだった。
地元のショッピングモールはそこここにキラキラ光るクリスマスツリーが飾られ、クリスマスソングが流れ、親子連れやカップルでにぎわっている。
来てはみたものの、肝心のクリスマスプレゼントを何にしようか考えて来ていなかった。
(マフラーとか手袋とか……身に着けるものは重すぎるわよね)
ふと横を見ると、革製品の店が目に入った。派手ではないけれど上質で、持つ人の気品を高めてくれるような小物は、大人っぽく落ち着いた雰囲気の鈴丸には似合うだろう。
けれど値札を見て思いとどまった。
(ダメダメ、こんな高価なもの贈ったら、お返しを困らせてしまう……!)
色々見て回ったが、これ、というものには出会えない。一階のスタバで休憩することにして、瑠璃子は季節限定の甘いラッテを頼んで席に落ち着いた。
(なかなか難しいわよね……。重すぎなくて、負担にならなくて、喜んでもらえるもの……)
熱いラッテをすすりながら考えこむが、名案は浮かばなかった。
その時ふと、レジ横の雑貨コーナーが目に入った。クリスマスらしく可愛らしくラッピングされたそれは……。
(そうだ……!)
瑠璃子は勢いよく残りのラッテを飲み干して立ち上がった。
2.クリスマスイブの夜に
瑠璃子の家では、毎年クリスマスには家族で小さなパーティーをする。クリスマスツリーを飾り、母がチキンを焼き、ちょっとしたご馳走を作る。
地元の商工会議所の催しや商店街のイルミネーションの管理に奔走していた父親も、夜には帰ってくるのが恒例だった。
両親と瑠璃子、鈴丸の4人で食卓を囲んだ後、ケーキを食べ、鈴丸は酔った父のおしゃべりに付き合う。瑠璃子は母と一緒に片付けを終えた後、ちらりと今のソファを見ると、父は赤い顔をして、鈴丸を相手に楽しそうにしゃべっていた。
(まだまだ終わりそうにないわね……)
なかなか鈴丸と二人きりになれる機会がない。
「瑠璃子、どうしたのですか、そわそわして。何か気になることでもあるのですか?」
片付けが終わってもなかなか部屋に引き取ろうとしない瑠璃子を見て、母が首を傾げた。
「な、何でもない! そろそろお休みなさい!」
瑠璃子は表情を隠すようにして、居間を後にした。
部屋に戻っても、居間の様子が気になって仕方がない。
何度かトイレに行くふりをして居間をのぞいてみたが、父はまだまだ鈴丸を解放してくれそうになかった。
(どうしよう……鈴丸の部屋の前で待ってる? でもお父さまに見つかったら困るし……メールで『終わったら部屋に来て』って言う? いやいやだめだめ、夜に部屋に呼び出すなんて、それはいくら何でも……)
トイレから出て、居間から三メートルほど離れた廊下で息を殺していると、居間のドアに足音が近づいてきた。瑠璃子は慌てて廊下の角を曲がり、身を隠す。そっと伺うと、父が部屋へ戻っていくのが分かった。続いて、お休みなさいませ、旦那様、と声が聞こえた。
(今だ……!)
瑠璃子は慌てて一度部屋に戻り、全速力で、けれど足音は殺して居間へダッシュした。
廊下の小さな照明が照らす中、鈴丸のほっそりした後ろ姿が、少しずつ遠ざかっていく。
「鈴丸……!」
瑠璃子は声を殺して呼びかけた。鈴丸がびくりと肩を揺らして振り返った。
「お嬢様……まだ起きていらしたのですか?」
「これっ……!」
瑠璃子は手に持った包みを差し出した。赤と緑のクリスマスカラーを銀の糸で縁どったリボンに飾られ、中に雪のようにふわふらした緩衝材の入った、透明な袋。そこから中身が透けて見える。
中身はペアのマグカップだった。スタバでラッテを飲みながら、レジの横に並べられていたマグカップを見て思いついたのだった。あの後食器を扱っている雑貨屋や食器コーナーを走り回り、鈴丸の喜びそうなデザインを探し回った。真っ白の地に、シンプルにハーブの花や葉がデザインされた上品なデザイン。ハーブティーにも合いそうだ。
「お嬢様……私に?」
でも、いざとなると鈴丸の顔が見られない。頬が熱くなり、心臓が胸の中で苦しいくらいに暴れまわっている。鈴丸の戸惑ったような声が頭上から降ってきて、ますます深くうつむいてしまう。
「これ、クリスマスプレゼント! あの、最近鈴丸が紅茶に凝りだしたの思い出して……その、一緒に飲めたらいいなって……!」
その時、プレゼントを持っていた手の重みがふっと消えた。顔を上げると、鈴丸の笑顔と目が合った。
「ありがとうございます、お嬢様。お嬢様のために、今度最高の紅茶をお淹れしますね」
鈴丸は大事そうに包みを小脇に抱えると、ポケットに手を入れた。
戸惑う瑠璃子の前で、鈴丸は少し恥ずかしそうに、ポケットから小さな包みを取り出した。
「これは、私からお嬢様に」
「え……! いいの?」
まさか鈴丸がプレゼントを用意してくれるなんて。心臓がもう一度、どきりと鳴った。
鈴丸は、少し照れくさそうに微笑んだ。
「実は今日、部活は昼過ぎには終わっていたのです。お嬢様へのプレゼントを用意したくて、嘘をついてしまいました」
「え……!」
今度は心臓が止まるかと思った。鈴丸に促されて開けてみると、小さなラピスラズリ(瑠璃)のネックレスだった。
胸がつまって言葉が出ない。どうしよう。早く鈴丸に感謝の言葉を伝えたいのに。
「うぐっ……あ、あ、ありがとう……、う、うれしい……!」
やっとのことで絞り出した声は、涙と鼻水まみれだった。あわてて洟をすすると、鈴丸の気配が近づいてくる。鈴丸がその長身をかがめて、瑠璃子の顔をのぞきこんでいた。
「喜んでいただいて、私も嬉しいです、お嬢様」
その時、居間の柱時計が、腹の底に響くような音を立てた。十二時だ。
「メリークリスマス、お嬢様」
「……メリークリスマス、鈴丸」
4.あとがき
わー、かゆい、むずがゆいです!
10代前半のピュアな恋愛って書くの難しいですね。
本編の二人はなかなかシビアなことになっております。
本当は今年中に続編を皆様にお届けしたかったのですが、果たせませず……。
来年こそはお届けできると思います。
それではみなさん、メリークリスマス!
最後まで読んで下さって、ありがとうございました!