はじめに
皆さん今日は、たまなぎこと珠下(たまもと)なぎです。
初めての方ははじめまして。心療内科医でゆるく作家活動をしております、珠下なぎと申します。
『ベルサイユのばら(ベルばら)』記事について非常に沢山アクセスを頂き、ベルばら関連でX(旧Twitter)のアカウントをフォローして下さる方々も増えました。
たまなぎもベルばらについてはそれなりに詳しい方だと思っていたのですが、ファン歴30年以上にして初めて知る情報をXで頂くことも多く、驚きと共に感謝することしきりです。
最近、びっくりするような情報を頂きましたので、こちらでご紹介したいと思います。
幻の毒入りワインのうわさ
1979年から80年にかけて、『ベルサイユのばら』のアニメ版がテレビで放送されました。
たまなぎが初めてアニメ版を見たのは放送から10年以上経ってからの話ですが、その頃から、「アニメ版ではなかった毒入りワインのエピソードが、どこかにあったらしい」という噂は聞いていました。
毒入りワインのエピソードとは、もちろん、ジャルジェ将軍が成立させようとしたジェローデルとオスカルとの結婚話に絶望したアンドレが、ワインに毒を入れてオスカルと無理心中を試みるも、かつてオスカルに命を救われたことを思い出して思いとどまるという、例のエピソードです。原作の一つのハイライトシーンでもあり、宝塚版ベルばらではくり返して演じられましたが、昭和アニメ版では飛ばされていました。
当時たまなぎが聞いていた噂は、次のようなものでした。
「もともと昭和アニメ版は全48話で構成されていたが、何らかの理由で40話で打ち切りとなり、それに合わせて8話分のエピソードが削られ、その中の一つが毒入りワインエピソードだった」
打ち切りになった理由にも、19話から作画が大きく変化したことで人気が落ちたとか、それに関係なく想像したほど視聴率が上がらなかったとか諸説飛び交っており、また、その毒入りワインエピソードが公開されたものなのか、本当に存在したものなのかどうかも定かではないまま、これはあくまでも真偽の不確かな噂、半ば都市伝説のようなものとしてたまなぎの中で引っかかったままでした。
毒入りワインシーンは実在した! 幻の24話『燃えつきたバラの肖像』
実在した毒入りワインシーン
ところがところが!
令和の劇場版アニメ『ベルサイユのばら』が封切られ、ベルばら関連の情報が入手しやすくなると、幻の24話『燃えつきたバラの肖像』なるものが存在する、という情報が流れてきました。
情報元をたどっていきますと夏樹(@nakky16)さまという方が、「ベルサイユのばら地方打ち切り版『燃えつきたバラの肖像』のビデオ発見!」で始まるツリーで、約80枚の場面写真と共に、当時の放送内容を詳細にX(旧Twitter)上でレポートされていたのでした。
その中に確かにありました! 毒入りワインの場面!
(該当の投稿は、テレビ画面を撮影した画像が多数掲載されており、直接リンクを貼ると著作権上問題になる可能性がありますのでリンクは貼りません。気になる方は夏樹さまのアカウントから『燃えつきたバラの肖像』で検索をお願いします)
『燃えつきたバラの肖像』内容
これは、第24話として放送されました。
第23話は「ずる賢くてたくましく!」首飾り事件、最後から二番目のお話です。
24話『燃えつきたバラの肖像』はこの続き、首飾り事件の結末から始まります。
その後、本編ではオスカルのドレスエピソード、黒い騎士騒動、フェルゼンへの失恋から衛兵隊への転属へと話がつながっていくのですが、このあたりははしょられます。24話『燃えつきたバラの肖像』では、首飾り事件が終息後、オスカルは原作どおり「首飾り事件に部下(ジャンヌの夫ニコラス)が関与した責任を取る」とアントワネットに願い出て、衛兵隊に転属します。。
革命の機運が盛り上がるパリ。娘を心配したジャルジェ将軍がジェローデルとの結婚話を持ち込み、アンドレは絶望。この時毒入りワインエピソードが挿入されます。
同時並行で、オスカルが肖像画を画家に描かせるエピソードも原作どおり挿入されていたようです。
その後、三部会が召集されます。平民議員を武力で排除するように命じられたオスカルはブイエ将軍の命令を拒否、激高した父がオスカルを処分しようとするがアンドレが止めに入り、ジャルジェ将軍が部屋を出ていった後、二人になったオスカルとアンドレは気持ちを確かめ合います。このあたりはほぼ原作どおりのようです。
その後、アンドレもオスカルも、それぞれに革命に身を投じる覚悟を固めていたようです。二人は7月14日、革命に身を投じる覚悟でパリへ向かい、目が見えないために落馬したアンドレを森の中の小屋で休ませていると、屋敷から召使がオスカルに完成した肖像画を届けに来ます。オスカルは勲章を捨て、肖像画を焼き捨て、アンドレと共にパリに向かい、二人が革命側の兵士として戦ったことが示唆されます。二人の戦死の描写はなかったようです。そして、アントワネットの処刑、フェルゼンの死などが断片的な映像として紹介され、そこで完結。というところのようです。(これは夏樹さまのツイートや、他にこのエピソードを見た方が断片的に書き記していらっしゃったものから私が類推したもので、私は直接番組を見ていないので細かい所は間違っているかもしれません)
毒入りワインエピソード、ジャルジェ将軍とのやり取りからオスカルのアンドレへの告白の流れ、また、場面の構成など、40話まで放送されたものよりもかなり原作寄りになっているようです。
違うところといえば、尺の関係ではしょられた黒い騎士やフェルゼンへの失恋を除けば、オスカルの肖像画に関するエピソード、オスカルとアンドレが戦死する直前で物語が完結しているところくらいではないでしょうか。
二人が戦死する直前で終わっていることもあって、「もしや生存ルート?」と希望を持たせる終わり方になっているところといい、毒入りワインエピソードはじめ、原作のエピソードが比較的忠実に再現されているらしいところといい、たまなぎとしては「こっちの方が良かったのでは?」と思ってしまうような内容でした。(昭和アニメと原作の違い、その背景について考察した記事はこちら↓)
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『ベルサイユのばら』昭和アニメはなぜ改変されてしまったのか?~時代から考察する
でもでも、これは首飾り事件~バスティーユ陥落の朝までをかなり大急ぎでまとめた内容。しかも、しかも、そこでアニメ版『ベルサイユのばら』は終わりなのですよ!
首飾り事件までに23話も割いておいて、残りを1話にまとめるとは、かなりの荒業です。(実際、原作の長さからすると、首飾り事件完結は本編9巻中の4巻の半ばです)
なぜ、こんな大急ぎのエピソードが生まれたのでしょうか?
そもそも、「地方打ち切り版」って、どういうことだったのでしょう。と色々気になり、調べてみることにしました。
地方打ち切り版『燃えつきたバラの肖像』はなぜ生まれたか?
そもそも、なぜ地方では、24話~40話が放送されず、『燃えつきたバラの肖像』にまとめられて1話で『ベルサイユのばら』そのものが完結する、などという強引な結果になったのでしょうか?
調べると、こういうことのようでした。
プロ野球シーズンの開幕に伴い、キー局である日本テレビで野球中継が行われた際に本作の放送が休止となり、遅れネットの局では放送スケジュールに空きが生じた。
その結果、遅れネット地域が先行放送でネタバレをしてしまう状況を避けるため、第24話で放送が打ち切られた。(引用元;ベルサイユのばら「燃え尽きたバラの肖像」(1980年 アニメ打ち切り用の最終話) - ロストメディア日本語非公式wiki | The Lost Media Wiki Japanese version (unofficial) - atwiki(アットウィキ))
「遅れネット」とは、キー局では中継として放送されたものが、地方局ではタイムラグの後に放送されることらしいです。
つまり、関東をはじめとした大部分の地域では、ベルばらの放送時間中に、野球シーズンに突入、本来ベルばら24話が放送されるはずだった枠は野球中継に充てられてしまった。そのため、野球中継が行われた地域ではベルばらの放送が後ろ倒しにされた。野球中継が後日録画放送となる地域で、ベルばら24話を先に放送してしまうと、地方の方が早く放送されてしまうため、野球中継が行われなかった地域では物語のラストまでを1話に詰め込んだ『燃えつきたバラの肖像』を24話として放送して強引に打ち切りとした、ということらしいです。(実際に放送されたのは、Wikipediaによると、福島・富山・鹿児島の三地域。福島では、1986年に24話~40話が放送し直されています。また、東北や北陸・九州の一部地域では「打ち切り」となっていることから、これは23話で打ち切られたのかもしれません。ここはよく分かりません)
(追記:長野県と長崎県では『燃えつきたバラの肖像』が放送されて打ち切りになった、という情報をコメントで頂きました。Wikipediaの記述では、これらの地域は『燃えつきたバラの肖像』が放送されたという記述がなく、「途中打ち切り」となっています。ですので、打ち切られたすべての地域で『燃えつきたバラの肖像』が放送された可能性があります(秋田・山形・新潟・石川・福井・長野・長崎・熊本がこれに該当します))
何つう乱暴な。地方の方が早く放送したら悪いのか⁉
たまなぎが昔聞いた噂、「打ち切り」のキーワード以外、一つも合ってなかった!
とたまなぎはショックを受けたのですが、昭和アニメ版の後半の改変に少なからずもやもやしたものを抱えていた身としては、「こんなふうにアニメ化されたバージョンもあったのか!」「幻の毒入りワインエピソードは存在したんだ!」と、ちょっと嬉しくなりました。
気になるところなど数点
といっても、こちらのバージョンにも、いくつか気になる点がないわけではありません。
このバージョンによると、アンドレはベルナールからの手紙で、独自に革命に身を投じる覚悟を決めたようです。オスカルもオスカルで自身の判断で革命に身を投じようとした。その直前で、父から届けられた肖像画を見て、アンドレはオスカルにジャルジェ家に戻るように説得するが、オスカルはアンドレと生を共にする。
ということらしいのですが、アンドレはオスカルと道を分かつつもりだったのでしょうか? 「何があってもオスカルのそばを離れない」のがアンドレだったのでは?
アンドレはオスカルがジャルジェ家に戻ると言えば、革命の道を諦めたのか。
うーん、ここは元の番組を見ていないので何とも言えません。
また、肖像画は、原作どおり「軍神マルスの扮装をしたオスカル」が描かれていたそうですが、なぜオスカルはそれを焼いてしまったのか。「軍神マルスの子として生きる」決意を固め、父母と決別したオスカルにとっては、肖像画は父母に残せる唯一の姿で、大事な形見ではなかったのか。受け取らず持ち帰らせる、というわけにはいかなかったのか。
とまあ、色々気になる点はあります。リアタイしたお姉さま方、ご存じでしたらぜひ教えて下さいませ。
といっても、「アンドレ、命じてくれ」とアンドレに進路をゆだねるオスカルや、バスティーユ陥落を見ずに散るオスカルなど、原作ファンとしては看過できない昭和アニメ版の改変はこのバージョンでは見られないようです。
この話を色々調べたついでに、後半オスカルをキャラ変した監督についても、ちょっと面白い話が出てきたのでご紹介したいと思います。
監督交代劇の真相
昭和アニメでは後半監督を務め、オスカルのキャラを大きく改変したことにより、原作ファンの間では非常に評判のよろしくないD氏。
そもそも、D氏が監督を務めることになったのは、前半の監督を務めたN氏と、オスカル役の声優さんが演技をめぐって対立したことが原因だったようです。
それによってN氏は監督を降板、14~18話までは監督不在のまま放送され、19話からD氏が監督を務めます。
Wikipediaによは、当時の様子がこう描かれています。監督本人のインタビューからの引用のようです。
出崎は長浜が手掛けた13話分の数話を視聴して、キャラクターデザインを手掛けた荒木伸吾の良さが出ていないと感じ、荒木に「これは美少女モノじゃない。思いっきりやってくれ。リアルにやりましょうよ」と直接語り掛け、荒木の了解の基、19話から絵柄が大きく変わることになった。出崎は「よりドラマチックに作っていこうと。フランス革命が後で舞台になって行く訳ですから、ちゃんと皆の生き様がないと形だけになっちゃう。革命の中でオスカルとアンドレは名も無い戦士として散っていく。それが僕にとってのテーマで、彼らの姿をドキュメントしようと思って作った」と述懐している[83]。
皆の生き様? 原作にあれほどしっかりと描かれていた、誇り高く自己の信念に従ったオスカル様の生き様をめちゃくちゃに改変しておいて、何が生き様?(怒)
とブチ切れたくなる思いはおいておいて。
もし、監督がN氏のままだったら、後半は原作に忠実に描かれたのか。気になるところです。
オスカル役の声優さんの意見を尊重した結果が、後半のオスカルキャラ変の遠因になってしまったとしたら、何という皮肉。
しかし、D氏が監督を務める前の14話にも、ジェローデルの「女が夢中になるものと言えば、男か金(ポリニャック夫人に対して)」という、当時の女性観を示唆するようなセリフがありますので、時代の影響も鑑みると、監督交代がなかったとしても、後半が原作どおりオスカルの生き様を描いたものになったとはあまり期待できないのが悲しい所です。
まとめ
・昭和アニメ版の中には、幻の毒入りワインエピソードが実在した。
・これは、地方で24話で本編が打ち切りとなった地域に限り、『燃えつきたバラの肖像』という本編にないオリジナル版の中に存在する。
・『燃えつきたバラの肖像』は、当時の放送を録画したもの以外実在せず、幻の作品となっているが、各所で視聴者が録画した内容を紹介されているので、内容を知ることができる。
・オスカルのキャラを変更したことで原作ファンには評判のよくない、昭和アニメ版監督のD氏は、前半の監督を務めたN氏が演技を巡って主演声優と対立して降板したことにより急遽監督を務めることになった。
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