はじめに
皆さん今日は、珠下なぎです。
今日も来て下さって、ありがとうございます!
さてさて今日は、大江山の生活の中にちらりと見える、貴族の習慣と恋について解説しましょう。
恋のきっかけ・襲の色目
鬼にさらわれて大江山に来た茜。
大江山で暮らすうち、とある方にどんどん惹かれ始めます。
ところが、恋も知らぬ深窓の姫君だった茜は、自分が恋をしているのに全く気づきません。茜が自分の恋に気づかされたのは、着替えがうまく進まなかったからでした。
部屋で濡れた着物を脱ぎ、新しい着物を出して着替えていても、いつものようにはいかなかった。襲(かさね)の色目なんて今まで気にしたことがなかったのに、この上に重ねる色はどれがいいだろうかとか、順番はこれでいいだろうかなどと、今まで考えたこともないようなことが頭に浮かんで、思うように着替えが進まない。
そんな茜に気づいて、手助けをしてくれたのが先輩にあたる姫の紅葉でした。
紅葉はセンス良く、茜の身なりを整えてくれた後、こう言います。
「ご自分でお気づきになっておられませんの? 茜さま、あなた、●●●●に恋をしていらっしゃるのよ」
(●●●●はネタバレになるので伏字にしました)
その指摘に、茜はびっくりします。
「え、恋? それって?」
わたしはびっくりした。これが恋をするという気持ちなのだろうか。つい今まで一緒にいたのに、●●●●にまた会いたいと思うのも、離れる時に寂しくてたまらなくなるのも、自分のみなりが急に気になり始めるのも。
「恋しい方の前で美しく装いたいと思うのは自然なことですわ。●●●●は確かに魅力的な殿方ですもの、でもね」
茜ちゃん、鈍いことこの上ありませんが、恋を知ったばかりの乙女というのは、こういうものかもしれませんね。
襲(かさね)の色目
襲(かさね)の色目とは?
茜が着物を着る時に迷ってしまったのは、「襲(かさね)の色目」でした。
当時の貴族の姫君が着る着物の絹は大変薄かったので、重ね着が当たり前でした。
着物を少しずつずらして重ね着することにより、襟元や裾にグラデーションが生まれます。また、下の色が透けて見えるので、重ねる順序によっても違う印象になります。
正確にいえば、襲(かさね)の色目と言われるものは三種類あり、
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重色目ー表の色と裏の色の組み合わせ。当時の絹は薄かったので裏地が透けたため複雑な色彩となりました。
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襲色目ーいわゆる十二単のような重ね着で、重なる色彩のグラデーションを楽しむものです。
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織りによるかさねー色目反物を織る段階で縦糸と横糸の色を変え、玉虫色の色彩を楽しみました。
(色彩と文様 | 日本服飾史より)
これらを複雑に組み合わせ、様々な変化を楽しんだようです。
長い着物の裾は、部屋の中にいても、遠くからでも人の目につきやすいため、この部分はセンスの見せどころでした。
若い男女が顔を合わせることも少ない時代ですから、男性は襲の色目でその人のセンスを見極め、果ては人となりまで想像したのです。女性にとってもアピールポイントでした。
色目の種類
襲の色目は、通年使えるもの、季節のものがあり、植物などの自然をテーマにしたものが多くありました
濃紅と紅梅の組み合わせで「梅重ね」、紫と青で「早蕨」といった具合です。
検索してみると、美しい画像が沢山出てきますので、ぜひ参考にされてみて下さいね。
茜の恋の行方は?
さて、とある方への想いを自覚し、身なりにも気を遣うようになった、『大江山恋絵巻~人の巻~』の主人公、茜。行動を共にしていた同じくもと貴族の姫、浅茅にも「最近大人っぽくなって綺麗になったみたい」と驚かれます。
ところが、茜の恋は思わぬ方向へ……!?
続きは『大江山恋絵巻~人の巻~』本編で、ぜひお確かめください!
まとめ
・襲(かさね)の色目とは、着物の重なり具合で様々な変化を見せておしゃれを楽しむものであり、男性にとっては女性のセンスを見る場所、女性にとってはアピールポイントだった。
・襲(かさね)の色目は季節をテーマにしたものが多くみられる。
・『大江山恋絵巻~人の巻~』の主人公茜は、襲(かさね)の色目を急に気にし始めたことで、芽生えた恋心を気づかれてしまう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!