作品関連情報と歴史・文学・ドラマ・本・映画etc

たまなぎブログ by LTA出版事業部

『おっさんずラブ~リターンズ』最後まで見たけれど……

はじめに

皆さん今日は、珠下なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます!

さて、〇十年ぶりにたまなぎを腐の道に引きもどした作品であり、昨今のBLドラマブームのさきがけとなった『おっさんずラブ』の正統派続編が、何と5年ぶりに制作され、話題を呼びました。

この作品は、男性同士の恋愛を描いたドラマとしては異例の大ヒットとなり、BLドラマブームのさきがけとなりました。この作品のヒット以来、次々とBLドラマが作られるようになり、中から様々な優れた作品が生まれました。『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』通称チェリまほも、その一つです。

しかし、『おっさんずラブ』は続編である劇場版が作られた後、主人公・春田創一と、彼に恋する上司・黒澤武蔵以外のキャストは総入れ替えでパラレルワールド的な続編『おっさんずラブin the sky』を発表。前作で主人公春田創一と結ばれた牧凌太の存在は消されてしまい、ファンから大ブーイングを浴びました。それでそのまま終了かと思いきや、5年ぶりに前回のキャストでの続編が制作されたのです。

ふり返ってみると色々粗いところはあるものの、春田と牧の切なく純粋で、不器用な恋に涙した本編。その視聴者にとっては待ち望んだ末、決してかなわないと思っていた正統派続編だったのですが……。以下感想を述べたいと思います。

(多分にネタバレを含みます。それから、ネガティブな感想がかなりあります。ご了承の上お進み下さい)

 

一言で言えば「雑」すぎた続編

一言で言えば、せっかくの続編はかなり「雑」。やりようによっては前編よりも感動的な話になったはずなのに、何とも中途半端な作品になってしまったように感じ、とても残念でした。以下に残念だった点とその理由を述べていきたいと思います。

 

部長の変わらないキャラ

部長のキャラがさすがにくどい。春田を追いかけまわす部長とそれを追い払おうとしてスイッチの入る牧、間に入っておたおたする春田というのは『おっさんずラブ』の鉄板ネタとも言えるのですが、さすがに何度も繰り返すと「ふられたのにしつこい」「部長うざい」という印象を与えてしまうように思います。

劇場版では「部長が記憶喪失になった」という荒業で何とかそれを可能にしていましたが、春田を忘れたくて退職し、しかも春田と牧は遠距離恋愛を乗り越えて何年も付き合い、ついに同棲まで始めたのにその間に割りこもうとするのはさすがに大人げない。

仕事が忙しくて家事が十分にできないために家事代行を頼んだのに、牧「だけ」に家事のダメ出しをするのも、二重の意味でありえません。共働きなんですから。

この黒澤武蔵のキャラについては、本編からもかなり賛否両論がありました。名役者の吉田鋼太郎氏は舞台役者らしいダイナミックでコミカルな演技で視聴者の笑いを取るのに大いに貢献しましたが、どうしてもゲイの方を漫才ネタにしていた昭和時代の感じが抜けない。『チェリまほ』や『きのう何食べた?』のように、恋愛の当事者に寄り添った丁寧さが感じられないのです。

しかも、その「うざさ」を「突然の余命1か月宣告」というお涙頂戴的な展開で帳消しにしようとしてしまうのも興ざめ。最終話ではその「余命1か月宣告」も、「単なる聞き間違い」ということが判明。また、同じ医者から見ると、最初に吐血(喀血)で受診した際に、ろくな検査もせずに「ストレス」と診断した医者も、かなり「ありえない」感がありました。

あと、病室で医者を殴ったりしたら、今なら容赦なく警察呼ばれますよ。

 

前編との整合性のなさ

他にも、脚本家は前編の内容をちゃんと覚えているのか?と疑問に思ってしまうほどの矛盾点が数多くありました。

牧の元彼・武川さんは、劇場版で部長を好きになったはずなのに(それもかなり無理な設定に見えましたが)、今度は出会い系で若い子を求めたり、マッチングした相手にだまされたり、挙句の果てには恋愛バラエティー番組に出演して相手を求めようとしたりなどかなり迷走。

あの劇場版の設定は何だったのか?と思いたくなりました。

武川さんも50歳。老いを意識する年頃になり、改めてパートナーを求めたいと思う気持ちは分かります。しかしそこでなぜ、好きになったはずの部長をあっさり諦めて若い子に走るのか?

部長を諦めるならその理由をしっかり描いてほしかった。

このキャラはかなり個性的で魅力的なキャラだったのに、これでは台無しです。

部長の元妻・蝶子さんと結婚したマロくんは、「失礼キャラ」から気遣いのできる後輩に急成長。マロくんを苦々しく思っていたらしい牧とも仲良くなっているシーンはほっこりしましたが、蝶子さんとマロ母との嫁姑問題はまた唐突でした。

前編の公式ブックによると、マロくんと蝶子さんの年齢差は27歳。しかし、今回ではマロ母が蝶子さんより10歳年下の設定。

ということはマロくんはお母さんが17歳の時の子?

しかも、マロくんには姉二人、妹一人がいることになっている。なのに「ずっとおふくろと二人だった」とはどういう家族環境でしょうか。

 

ありえない「都合のいい」偶然が多すぎる

天空不動産に中途採用された人物が、「たまたま」隣に住んでいて、しかもその元恋人が主人公春田に「たまたま」そっくりという設定。同性カップルの隣に「たまたま」同性愛者が住んでいる可能性だって、相当低いと思われるのに、ここまで「たまたま」が重なると、ただのご都合主義に見えてしまいます。

元々のドラマにもそういう側面はありました。

2話で「わんだほう」での喧嘩後、街を探し回った春田が「たまたま」牧を見つけるとか、最終話で結婚式場を飛び出した春田が、空港の近くで「たまたま」牧を見つけるとか。

このくらいなら「まあ物語だから」と何とか折り合いをつけることもできましたが、他にも、この続編では、家事代行を頼んでやって来た家政夫が「たまたま」転職した黒澤部長だったとか、一人で結婚式の打ち合わせに向かう春田が「たまたま」黒澤部長と出会うとか、ホームパーティー後にビデオメッセージを見た春田が、「たまたま」部長を見つけるとか、「現実ではありえない」ご都合的な偶然が多すぎ、やや辟易した感がありました。

 

余計な登場人物が多すぎる

『おっさんずラブ』は、個性的で魅力的な人物が数多く登場し、彼らの人間模様だけでも十分なドラマができるはずです。

春田と牧の家族だけでも、牧父に春田がよく思われていなかったことを含め、半ばお笑いのように二人を仲良くさせて終わるだけでなく、きちんと「結婚の挨拶」をし、パートナーになることを宣言するシーンを入れればもっと物語が深くなったかもしれません。

牧は春田と付き合うまで、父親にゲイであることを明かしていなかった。牧の父親は、牧のことはとても大事にしているようでしたが、ゲイであることを受け入れたようには見えませんでした。そこからどうやって父親を説得して、結婚式を挙げるまでにこぎつけたのか。ここも、単に「春田と牧父の和解」だけでなく、親子のドラマもしっかり描けたはずです。

栗林家の嫁姑問題にしても、「たまたま」「都合よく」「推しが一致して仲良くなった」で終わらせず、互いを時間をかけて理解していく設定にすることもできたはずです。

武川さんのその後にしても、劇場版からの心情の変化を、部長のことも含めもう少し膨らませてもよかったと思います。

しかし、余計な新キャラやアクションシーン・お笑いシーンをこれでもかとお手盛りにして尺をつぶしているのは何とも勿体ない気がしました。

劇場版の新キャラ、ジャスティス氏と狸穴氏は、いつの間にか消えていましたしね。使い捨て的なキャラを多用するのは、ちょっともったいない気がします。

 

評価できる点

もちろん、良かった点もいくつもありました。

 

春田と牧の成長が見られた

一番大きいのは、春田と牧にドラマを通して大きく成長が見られたこと。

1話の時点では、「春田、まだ家事を牧にまかせっきりにしてるのか? あれから何年たったと思ってる!」とぶち切れそうになりましたが、ドラマが進むにつれ、春田もいつの間にか料理を覚え、積極的にできる家事を見つけて動くようになっている。

また、牧も、前編では気に入らないことにすぐキレて喧嘩腰になってしまう一面がありましたが、今回ではやや温和になり、「一歩引いて話し合うことができる」キャラになっていたのが印象的でした。

ここはとてもよかった。それに反して部長が全く変わっていないのにはちょっと……でしたが。

 

シングルマザーちずの奮闘とそれに寄り添う周囲

前編で春田への想いに気づき、春田に告白した、幼馴染のちず。それが春田と牧の別れのきっかけになってしまうのですが、その後春田と付き合うことはなく、別の恋人ができます。

しかし、劇場版ではその人とも別れ、今回の続編ではシングルマザーになっています。

広告代理店に勤めるキャリアウーマンでもある彼女は、今回は天空不動産の本社ともコラボ、多忙な日々に加え、兄夫婦が海外旅行で助けを得られなくなると、過労で倒れてしまいます。

代わって春田と牧が子守を引き受けるシーン、病院で部長がちずを「十分頑張っている」と慰めるシーンは良かった。

思うようにならない子どもを育てながらの仕事は、あちこちにとても気を遣うもの。「自分はダメだ」と思いつめてしまうことも多々あります。そこで手を差し伸べてくれる存在、寄り添ってくれる存在は本当にありがたいものです。このシーンに共感した女性は多いのではないでしょうか。

 

名前のない関係

また、部長の余命宣告云々は別にして、最終話で春田と天空不動産を通じて知り合った仲間たち・わんだほうの荒井兄妹らの仲間が、春田を囲んでパーティーをするシーンは良かったと思います。

春田はダメ人間でポンコツですし、わがままで子供っぽいところもありますが、人が好く「皆に愛されるキャラ」。

牧父がぎっくり腰で動けないと聞くと、嫌われているのを承知で駆け付け、下の世話までためらいなくやってしまう優しさがあります。これはちょっと普通の人にはまねできません。

たまなぎはこのシーンで春田を見直しました。

ちょっと脱線しましたが、春田が、「俺たちの関係って何だろう」と首をひねった時の舞香さんのセリフ、「名前のない関係もいいんじゃないかしら」も良かった。

家族というわけでもなく、単なる仕事上のつながりというわけでもなく、時々会って互いの状態を報告したり、何かあった時は支え合ったりする関係。そういう「つながり」というのは今時貴重かもしれません。

春田と牧の関係も、同性婚が認められない今では、法的には単なる同居人にすぎません。ですから、それをも含め、法的に定義されなくても、名前がなくてもよい、「ゆるい共同体」のようなものを肯定している姿勢は、現時点における一つの回答だと思います。

(だから同性婚は認められなくてよい、という意味ではありません)

 

さいごに

BLドラマブームのさきがけとなった『おっさんずラブ』。社会現象とも言われた前編の、数年ぶりの正統派続編は、「全体的なテーマとしては納得できるところも多々あるが、全体的に雑で、個々の人間に対する描写が足りない」印象でした。

それでも最後まで見てしまいましたが(笑)。

皆さんはどんな感想をお持ちになりましたでしょうか?

 

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

  • B!