はじめに
皆さん今日は、珠下(たまもと)なぎです。
今日も来て下さって、ありがとうございます!
今回も前回の続きです。
最初の記事で軽く触れましたが、大きな災害後に心に傷を負った時、そこから回復するにはどのようなことを心がけたらいいかをお話しました。
前回の記事はこちら↓
はじめに 皆さん今日は、珠下なぎです。 今日も来て下さって、ありがとうございます。 さて、先日予告しましたとおり、今回より数回に分けて、災害後の心のケアについての記事を連載しようと思います。 &nbs ...
災害後の心のケアのあり方について①災害後に起こる心の変化と回復のコツ
今回はこれについて、もう少し詳しくお話しましょう。
治るためのコツと回復を妨げる要因
前々回の記事で、災害後に心の傷を負った時、回復するためのコツとして、次のようなものを挙げました。
・無理せず定期的に休みを取る
・つらい気持ち、悲しい気持ちを我慢せずに言葉にする
・友人や家族、周囲の人と体験や感情を共有する
しかし、簡単なようでいて、これは意外と難しいことです。
東日本大震災後に今の日本を包んだ空気や、メディアの報道を覚えておられる方はどのくらいおられるでしょうか。
震災から数ヶ月間は、一日も早い復興をと勇み足になっているのではないかという印象を持つほど、メディアの報道にはやたら気分を高揚させるような論調が目立っていました。
たとえば、被災地以外の地域の方が被災地でちょっとしたお祭り的なイベントを企画したり、地域の特産品を贈ったりして支援したことを報道する際、「被災地の方たちに○○を食べて(あるいは見て)元気になってもらおうと……」というフレーズがやたらと耳につきました。
また、アナウンサーの「被災地の方々が一日も早く元気を取り戻してくださるといいですね」という、決まりきったようなコメントも、何十回と耳にしたことでしょう。
復興を支援することはもちろん大切なことです。しかし、それは、まだ心の傷から十分回復していない方にとっては、
「泣いてはいけない、悲しんではいけない。悲しんでいる暇があったら今できることをやりなさい」
とでも言わんばかりの圧力となってのしかかることがあるのです。
そうすると、回復の過程にとって大事な休息や悲しみの表出は妨げられ、心は正常な回復に向かうことができなくなります。
大切な方を亡くされた方についても同様です。前回の記事でも書いたように、大切な人を失った悲しみから回復するには、「十分悲しむこと」が大事ですから、「悲しんではいけない」という空気が出来ることは、心の回復にとって、マイナスになってしまうのです。
断っておきますが、決して復興に向けた努力や周囲の支援を否定しているわけではありません。
ただ、そうした中にも、必ず「辛いときは辛いといえる場所」を残しておいてほしいと思うのです。
「場所」というのは何もカウンセリングルームや診察室だけのことではありません。
気心の知れたものどうしのちょっとした愚痴を言い合う場も、離れた家族からの電話も、今の時代はSNSで発信することも、そういった「場所」になり得るのです。
ハネムーン期と幻滅期
心に傷を負った時、十分に悲しみを表出したり休息を取ったりすることができなくなるのは、災害の時に限った話ではありません。
しかし、災害後の心のケアを考えるうえで、災害時特有の現象についても知っておいてほしいことがあります。
それは、ハネムーン期と言われる現象です。
大きな災害に遭った人は、ショックを受けて茫然自失とする期間が過ぎると、今度は災害後の生活に一見適応したかのように見え、被害の回復に向けて積極的に立ち向かう、ハネムーン期という時期を迎えます。
東日本大震災の直後、メディアで報道された避難所の様子を見ていると、被災者の方々は大変よく努力されていたのが印象的でした。子どもからお年寄りにいたるまで、ボランティアや行政任せにせず自分にできることを見つけてそれを実践し、弱者を気遣い、積極的に働いておられました。
こういった行動自体は大変素晴らしいのですが、災害から時間がたち、メディアが被災者を報道しなくなり、地域外の人々の関心が薄れる頃になると、今度は無力感、倦怠感にさいなまれる、幻滅期という時期がやってくることが知られています。
これは、ハネムーン期の頑張りの反動です。そして、ハネムーン期に、辛さや悲しみを押し殺していればいるほど、無理をすればするほど、幻滅期の反動は大きいのです。
実際、東日本大震災の時には、ハネムーン期に頑張りすぎ、幻滅期に入った2012年5月に自ら命を絶ってしまわれたという方の事例が、報道されています。数多くの親族・家族を震災で亡くしながら、復興のために身を粉にして働き、お盆過ぎくらいから気力をなくして抑うつ状態に陥っていたそうです。
こうした事例は、おそらく一例だけではないでしょう。自殺までいかなくとも、復興のために頑張らなくてはと必要以上に自分を叱咤激励し、その実心身ともに疲弊してしまった方は数多くおられたのではないでしょうか。
復興に向けて努力されている方の、その努力自体を否定することはもちろんできません。
そして、そこに、こういった事例の難しさがあります。周囲の方々も、自分たちも大変な中、「共に頑張っていこう」と、毎日を懸命に生きてこられたに違いありません。
その中で、自分自身が疲弊していること、周囲の誰かが外見とは裏腹に疲弊していることに気づくことは、思った以上に難しいことなのかもしれません。
最後に
今回の震災に遭った方は、身体的にも精神的にも、大変つらい状態にあると思います。
心を回復させるためには、繰り返しになりますが①休息②気持ちの表出③周囲の人との体験の共有 が大事です。
そして、最初の記事でも述べましたが、災害直後に涙が出たり、眠れなくなったり、気持ちが落ち込んだりするのは当たり前のことですが、あまり長くなると問題です。おかしいと思ったら、遠慮なく専門家を頼って下さい。
当事者以外の方ができることについては、次の記事で詳しく述べますが、今回は「復興のため頑張ろう」という呼びかけ、励まし自体が、時としてその人の限界を超えた頑張りを言外に要求してしまい、その結果、相手を追い詰めてしまうことのあることを、十分に知っておいて下さい。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!