作品関連情報と歴史・文学・ドラマ・本・映画etc

たまなぎブログ by LTA出版事業部

『作りたい女と食べたい女』④~ドラマと原作を比較してのやや辛口感想

皆さん今日は、珠下なぎです。

今日も来て下さって、ありがとうございます!

 

さて、ドラマ『作りたい女と食べたい女』は終わってしまい、一応最後まで感想は書かせて頂きました。

それでもまだまだ原作と比較すると、この作品については書きたいことがまだまだあります。

もう少しお付き合いいただけると嬉しいです。

 

1.春日さんの背負うもの

ドラマでは、春日さんが背負っていたのは、すでに「過去のこと」とされていました。

男尊女卑の強い家族に反発し、春日さんは家を出て、それから一度も帰っていない。春日さんはすでに家族から自由になったかのような描かれ方がされていました。

 

ところが、原作では、春日さんは、「介護が必要になった祖母のために、仕事をやめて帰ってこい」と父親から高圧的な命令を受けます。今は祖母=父の母は、春日さんのお母さんが全面的に介護を担っている状態。母親を楽にさせるために帰ってやれ、というわけです。

実家には父がおり、弟も近くに住んでいます。けれど父親は、「俺は仕事がある」「弟には介護はきつい」と、介護を手伝うことを拒否します。

介護=女性が無償で担うべきもの、と思い込んでいるのですね。

さらには、「おまえの仕事なんて大した仕事じゃないんだろう」と馬鹿にします。

続いて、父親に隠していた春日さんの住所を、父の妹である叔母は勝手に父に教えてしまいます。無理やり連れ戻されるのを避けるため、春日さんはマンションを出る決心をし、野本さんに同棲を持ち掛けます。

ここで、春日さんが「過去を捨て、本当に大事な人と新たに家族になる」という、再生の過程が描かれるのです。

これはドラマでは完全にカットされています。

「大事な人と新たに家族になる」というメッセージを出しながら、この春日さんのエピソードをカットしたのは納得がいきません。原作のエピソードは、このメッセージに強い説得力を与えるものだったのに。

いったいどちらへの忖度でしょう。

 

2.マイルドにされた政治的メッセージ

原作の漫画は、出版社と一緒になり、強い政治的メッセージを打ち出しています。

以前も紹介した、「物語のままで終わらせない」とのキャッチフレーズと共に、新聞に全面広告を出したのはその一例。

ところが、ドラマではこれらの政治的メッセージがカットされたり、マイルドなものに変えられたりしています。

たとえば、野本さんが「自分がレズビアンではないか?」と自覚して、「レズビアン」について検索するシーン。

原作では、男性向けアダルトコンテンツばかりがヒットして、野本さんはびっくりして検索をやめてしまいます。ここでは、レズビアンの女性の性が彼らのものではなく、男性向けのものとされている=女性は男性を快適にするために存在するという、現代社会の問題が示唆されています。

ところがドラマでは、レズビアンの女性向けの性の悩みがヒットしたり、レズビアンの女性同士が同棲したり子育てしたりというSNSの発信がヒットしたりして、前向きな場面に変えられているのです。

また、テレビのニュースとして、「伝統的な家族観」を語る政治家が何度か出てきますが、これはドラマでは完全にカットされています。

 

3.作品で政治的メッセージを語ることの是非

エンタメ作品で政治的なメッセージを語ることについては、賛否ありますし、また好みも別れると思います。

原作のコミックについてのAmazonでの評価を見てみると、高評価が多数を占める一方で、「『正しさ』の押し付けがいやだ」などの理由で、低評価をつけている人が一定数見られます。

男性同士の恋愛を描いた名作「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」や「きのう何食べた?」などと比較して、政治的なメッセージを入れることに否定的なコメントも散見されました。

けれど、以前も書いたように、レズビアンの女性は、「女性であること」「性的少数者であること」と二重にマイノリティの立場に置かれていることを考えると、政治的なメッセージは避けては通れないのではないかと思います。

さらに、つくたべの二人は派遣社員と契約社員。不安定な立場に置かれています。また、男性よりも女性の方が派遣社員や契約社員などの立場に置かれやすいのも事実。

二人とも上場企業の正社員で男性である、「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」のように、女性同士の恋愛を明るくコミカルに描くことは難しいのではないでしょうか。

 

4.春日さんの抱えるものは過去ではなく日本の未来

春日さんの家庭について、「古い考えを持った一部の極端な例」とし、これを女性の生きづらさとして描くのは違う、と思う人もいるでしょう。こういった家庭はこれからは少なくなるはずだ、とも思われているかもしれません。

しかし、政府与党の憲法改正草案では、「家族条項」が新たに導入されているのをご存じでしょうか。

これには、「家族は互いに助け合わなければならない」と書かれています。

また、11月の通常国会では、介護保険の「要支援」対象者を介護保険の対象から外し、地方自治体の事業とする案が与党から提出されました。

これは最終的には否決されましたが、現在政府は「自助、共助、公助」を前面に打ち出して社会保障改革を進めています。

これはつまり、「なるべく公に頼らず、家庭のことは家庭で何とかしろ」という姿勢。

そのしわ寄せはどこに向かうのでしょうか。

春日さんの姿は、過去ではなく、すぐそこまで来た未来の日本人女性の姿なのです。

 

色々なバッシングもあるでしょうに、作品を通して政治的なメッセージを打ち出した「つくたべ」の作者と出版社には、心から敬意を表したいと思います。

(逆にNHKはちょっと腰が引けていたように感じます、残念)

 

最後まで読んで下さって、ありがとうございました!

 

 

  • B!