皆さんこんにちは、珠下なぎです。
今日も来て下さって、ありがとうございます!
先日のブログでは、『鬼滅の刃』の鬼は、日本の鬼よりも西洋の吸血鬼に近いのではないか、というお話をさせて頂きました。
現在皆さんがイメージする吸血鬼に最も近い形の吸血鬼のルーツは、スラブ地方にあります。
前回のブログでもご紹介したように、墓から蘇って人間の血を吸う「生きている死体」であり、生前の妻と関係を持つことも知られています。
吸血鬼に襲われた者は死後吸血鬼になる、倒すには杭で串刺しにしたり首を落としたりしなければならないなど、今私たちがイメージする吸血鬼の原型はここにあります。
なお、「首を落とせば死者は絶対に蘇らない」との伝統は、さらに古く、古代エジプトにもありました。
古代エジプト人は霊魂の不滅を信じていました。
王たちが葬られたピラミッドは、単に墓所というだけでなく、死者の復活のための装置であったことは最近広く認知されるようになってきていますね。死者の復活にそなえて肉体をミイラにして保持し、墓所には魂(バー)が出入りできるための「偽扉」と言われるモチーフが描かれました。
その古代エジプト人の中に、「首を落とせば死者は蘇ることができない」という信仰がありました。
それが転じて、「復活した死者=吸血鬼を退治するためには首を落とすことが有効」という考えに変わったようです。
『鬼滅の刃』の鬼の弱点の一つとして、「首を落とせば殺せる」というのがありましたね!
(ただ、『鬼滅の刃』については全ての鬼に有効、というわけではありませんでした。これについてはまた後日考察します)
日本の鬼には、このような特性はありません。
というより日本の鬼はそもそも死者ではなく、「異形の人間」や「古い神」に近い存在であり、特定の方法でないと倒せない、というような性質はありません。
日本を代表する鬼・大江山の酒呑童子は首を落とされて殺されましたが、その首は刎ねられてなお、武士たちに噛みついたことが知られています。
つまり首=弱点というわけではないのです。
また、異形のものが女性の寝所に忍び込む、という伝承は、古代ギリシア神話にもありました。
これは悪魔や異界のものだけでなく、ギリシア神話の最高神ゼウスは、様々な女性の寝所に姿を変えて忍び、沢山の子をなしたことが知られています。
いわゆる典型的な吸血鬼とはちょっと違うのですが、ギリシア神話にこんな話があります。
人間の娘ラミアは、ゼウスとの間に沢山の子を産みますが、ゼウスの妻ヘラの憎しみを買い、子どもを全て殺されてしまいます。
それで復讐のため吸血鬼となり、子どもの血をすするようになってしまった、という悲しいお話で、かなりイレギュラーな吸血鬼ですが、異形のものとの婚姻、というお話のついでにご紹介しました。
次回の記事では、切っても切れない吸血鬼と「血」の関係、そして『鬼滅の刃』の鬼と吸血鬼の特性の共通点について、引き続きお話しします。
最後まで読んで下さって、ありがとうございました!
参考文献
栗原成郎『スラヴ吸血鬼伝説考』(河出書房新社)
オーブリー・シャーマン『ヴァンパイアの教科書~神話と伝説と物語~』(原書房)