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たまなぎブログ by LTA出版事業部

『遠の朝廷にオニが舞う』の世界㊷諏訪神社に伝わる鈴その4~「みすずかる」と「まがねふく」~(by 珠下なぎ)

皆さん今日は、珠下なぎです。

本日は鈴と古代製鉄についての連載、最終回です。

 

諏訪地方で湖沼鉄による古代製鉄が行われていたであろうことは、諏訪神社に伝わる伝説や神事から示唆されていますが、実は他にも意外な形で、この事実は伝えられているのです。

 

俳句や短歌をたしなむ方なら、「みすずかる」というのが信濃の枕詞であることはご存じでしょう。

 

「水薦苅」もしくは「三薦苅」と表記されたこの言葉は、古く、万葉集に見られます。

 

賀茂真淵らは、古写本には「篶(すず)」と書かれていたので、「薦」は誤りとしてこの枕詞は「みすずかる」と読むのが正しいとしてきました。

しかし、近年は信濃には湖沼が多く、薦(こも)が沢山生えていたので、そのまま「みこもかる」と読まれるのが正しいとされているようです。

しかし、『古代の鉄と神々』の著者、真弓常忠氏はこれには異論を唱えられています。

 

前回の記事でご紹介した、固い殻状の褐鉄鉱。鈴の形の原型になり、製鉄の材料になった褐鉄鉱と、それの付着する薦や葦・茅のような水辺に生える植物一般を、広く「すず」と称したのではないか。

神聖を意味する「み(御、神などの字があてられることが予想される)」を接頭につけたのは、よほど鈴を神聖視していたのでなければ説明がつかない、ということです。

 

諏訪神社に祀られた神は製鉄神であり、製鉄は古代の人々にとって非常に重要なものでした。

 

「みすずかる」という枕詞には、薦に付着する神聖な鈴を刈らせて頂き、大事な製鉄の材料として使わせていただく、という意味が込められているのかもしれません。

 

一方、吉備(現在の岡山)には、「まがねふく」という枕詞があります。

中国山地では、砂鉄を使った製鉄方法が、比較的早く、6世紀頃から行われていたことが分かっています。

それでも、少なくとも弥生時代、研究者によっては縄文時代の技術でも可能であるとされた湖沼鉄からの製鉄に比べれば、かなり新しい製鉄法であることは確かです。

 

「出雲国風土記」に登場する、日本最古の鬼が、産鉄民の特徴を備えていることは、以前ブログでご紹介しました。

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中国地方の製鉄は、最初は山の斜面に炉を作り、中に砂鉄と木炭を入れ、自然風を使って炉の温度を上げていました。

後にはふいごが使われるようになり、さらによく知られている足踏み式のたたら製鉄へと進化していきますが、いずれも吹く風の力を利用した製鉄方法です。

 

これは私の想像ですが、「まがねふく」は「真金吹く」ではないか。

風の力を使った製鉄方法であることを、今に伝える枕詞ではないでしょうか。

 

新しき「まがねふく」鉄の民が、古き「みすずかる」鉄の民を屈服させた、諏訪神社の伝説からは、そんな歴史が読み取れるのです。

 

最後まで読んで下さって、ありがとうございました!

 

 

 

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